「ビジネスの成功を実現させる」ことをPurpose(パーパス)とするネスレ日本の法務部。その達成には考える時間を創出することが重要であるとの発想から、リーガルテックの活用などによる業務効率化を進めている。

ビジネス環境の変化に伴い業務の範囲が拡大し、難易度が高まる中、同社ではどのように法務DXを進め、考えるための時間を創出しているのだろうか。12月2日に開催されたTECH+スペシャルセミナー「バックオフィス業務のデジタル適応法〜バックオフィスからDXの礎をつくる〜」にて、ネスレ日本 法務部 部長 美馬耕平氏が紹介した。

企業の属性によって理想的な法務の形、取るべき手段は異なる

美馬氏はまず前提として「法務の話をするにあたっては、まずどのような企業属性の違いがあるかを意識しておいたほうが良い。属性によって理想的な法務の形、取るべき手段は異なる。たとえば上場企業が非上場企業の法務部門の事例を理想にしようとしても、守りの機能が十分に果たせず悪い結果を招いてしまうことも考えられる」と説明した上で、ネスレ日本について次のように紹介する。

「ネスレ日本は、外資系企業の日本法人で非公開会社です。そのため、上場のための規制やアクティビスト対応がないこと、銀行や投資家など出資者の関与が少ないことが特徴になります。また、食品会社であるため製品に対しては厳しい品質が求められますが、官公庁による監督や事業に関する法規制はそこまで厳格ではありません。それゆえ、経営陣の判断は、きっちりと守るというよりは、リスクを取ってでも攻める傾向にあります」(美馬氏)

そうした背景の下、同社の法務部は「ビジネスの成功を実現させる」ことをパーパスに設定。「ガーディアン+ビジネスパートナー+ビジネスリーダー」としての役割を果たすことを使命としており、Code Of Conduct(行動規範)として、「とにかく考える(想像と解決策の創造)」「目的と手段を混同しない」「実行可能な決断ができるアドバイスを」「持続的なビジネスのためにはコンプライアンス」などを掲げている。

在籍する6名の部員は、マーケティングや会計、営業経験者など、さまざまなバックグラウンドを持っていることが特徴だ。その根本には、会社そのものについての知識・経験を重視しており、法律の知識は法務部配属後の勉強やトレーニングで身に付けられるという考え方がある。部員の中には、エンジニアとして工場に勤務した後、知財関連の法律に興味を持って勉強した結果、弁理士資格を取得した人材もいるという。

「エンジニアが法務部に来れば法律家と肩を並べることができる一方で、いくら資格を持っていたとしても、実際のビジネスの現場においてどのような考えで何が行われているのか、会社自体のことを知らなければ、法務部としての役割を果たすことは難しいものです。それならば、さまざまなバックグラウンドを持つ部員が、会社を深く理解した状態で仕事をした方が良いと考えています」(美馬氏)