国立循環器病研究センター(国循)は3月4日、都市部地域住民を対象として、同組織が1989年より実施しているコホート研究「吹田研究」の6575名のデータを用いて、日常生活において3階以上の階段の利用が多いと、心房細動罹患リスクが低いことを明らかにしたと発表した。

同成果は、国循 健診部の小久保喜弘特任部長らの研究チームによるもの。詳細は、健康と予防医学を扱う日本衛生学会の欧文オープンアクセスジャーナル「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載された。

身体活動量が多いと、循環器病やがんなどの罹患率や死亡率が低くなることが近年の疫学研究から示されるようになってきた。しかし、その一方で激しすぎる運動は健康を損なう場合もあり、これまでの研究から、アスリートは非アスリートに比べて、5.29倍も心房細動になりやすいことが明らかにされており、適度に運動することが求められるようになっている。

健康障害にならずに健康増進が期待される身体活動の程度を測る方法として、身体活動問診で身体活動量を「身体活動の強さ」と「その活動時間」の掛け算で求めることが可能だが、日常生活において身体活動の内容別に身体活動量の合計を求めることは難しいとされてきた。

近年、スマートフォンのアプリやスマートウォッチなど、身体活動量の計測を容易にする手段を誰でも利用できるようになってきたが、それらでもって厳密に計測しようとすると、一日中肌身離さず所持する必要性があるという課題があった。そこで研究チームは今回、日常生活における簡便な身体活動の指標として、階段の利用率を想定し、階段の利用が多いと心房細動の予防につながるかどうかの検討をすることにしたという。

吹田研究の参加者である30~84歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に心房細動の既往歴のない6575名(男性3090名、女性3485名)を対象に、心房細動の新規罹患を追跡したところ、平均14.7年の追跡期間中に295名が心房細動と新たに診断されたという。

研究では、「3階まで昇るときに階段をどのくらいの割合で利用するか」という質問において、2割未満、2~3割、4~5割、6~7割、8割以上の5択で参加者が回答。階段の利用率が2割未満の群を基準とした場合、6割以上階段を利用する群において心房細動の罹患リスクは、性年齢調整で0.69倍(ハザード比0.69、95%信頼区間0.49~0.96)、多変量調整で0.71倍(ハザード比0.71、95%信頼区間0.50~0.99)、さらに運動習慣の有無による調整で0.69倍(95%信頼区間0.49~0.98)だったとした。

今回の研究成果は、日ごろ3階程度まで上るときに階段を6割以上利用している群において、心房細動の罹患率が低いことを、日本国内の地域住民を対象とした追跡研究で示すもので、研究チームは、日ごろから階段をどの程度利用しているかという簡単な指標で心房細動のリスクを予測でき、しかも運動習慣で調整しても有意であったところから、運動習慣とは別に日ごろから日常生活で階段を利用するように心がけていると、心房細動になりにくいということが示されたとしているほか、日ごろから階段を利用するように心がけている人は、階段以外のところでも身体を動かそうとしている可能性もあり、日ごろから日常生活で身体を動かすように心がけていると、心房細動になりにくい可能性も考えられるという。

これまで吹田研究では、健診程度の古典的リスク因子を用いて心房細動罹患の予測ツールが開発されてきたが、今回の結果を受け、今後は生活習慣要因も加えていくことで、心房細動発症予防のために、どのような生活習慣改善、たとえば食事要因、運動要因、睡眠要因などが必要であるか提示できるようになる可能性があるとする。ただし、今回の研究における限界性として、自己記入式の問診票であるため、誤分類の可能性が否定できないともするものの、健診時に看護師が記入を確認しているので、誤分類は最小限に抑えられているとしている。

また、腰痛やヒザ関節症などの整形外科的な疾患を有する方は、階段を避ける傾向があると考えられるというが、今回の研究では、これらの疾患の影響を検討していないとしており、そうした人たちには、椅子を使った体操など別の方法を紹介していく必要性があると考えているとするほか、階段の利用率はベースライン時のみの解析であり、追跡期間中の階段の利用率も併せて今後さらに研究を広げていきたいとしている。加えて、今回の解析では、生活習慣の中でも食事要因や睡眠などに関する要因を検討していないことから、今後さらなる研究が必要だともしている。

  • 階段の利用率レベル別による心房細動罹患リスクとの関係

    階段の利用率レベル別による心房細動罹患リスクとの関係(ハザード比、95%信頼区間) (出所:国立循環器病研究センターWebサイト)