IDC Japanは1月18日、国内金融IT市場の2022年~2025年の市場予測を発表した。2022年の国内金融IT市場規模は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響は残るものの、大手金融機関を中心にDX推進を目的としたIT支出の拡大が見込まれることから、前年比成長率1.1%の2兆4,597億円と予測している。

  • 国内金融IT市場 主要業態別IT支出、2020年~2025年年間平均成長率 予測(出典:IDC Japan)

    国内金融IT市場 主要業態別IT支出、2020年~2025年年間平均成長率 予測(出典:IDC Japan)

国内金融IT市場全体において、2021年はCOVID-19の影響により経済回復が遅れているが、大手金融機関においてDX推進を目的としたIT支出が拡大しており、2022年も引き続き大手金融機関を中心にIT支出の拡大を予測。特に一部のメガバンク、カード、損害保険会社などでは業務系システム刷新が予定されているほか、その他の大手金融機関、ネット証券、一部のネット銀行、大手地方銀行でも業務効率化やチャネル見直し、新規ビジネスモデル構築など目的とした積極的なIT支出を予測している。一方で、多くの地域金融機関は地域経済停滞の長期化が見込まれ、引き続きIT支出が抑制されることから低い成長率が継続するとIDCはみている。

なお、大手金融機関などを中心に激変する経営環境の中で生き残りを図るためのDXの取り組みが継続している。IDCでは、デジタルを積極的に活用することで変化に対応し、企業成長する能力を「デジタルレジリエンシー」と定義しており、DXは「デジタルレジリエンシー」獲得に向けた取り組みの施策として重要な位置づけになるとみている。現在、対応すべき経営環境の変化は大きく、様々な分野に及んでいることから、国内金融機関では「デジタルレジリエンシー」の重要性がさらに高まるとIDCは考えている。

現在、「デジタルレジリエンシー」を目的とした取り組みとして、業務効率化を目的としたIT支出から、新規顧客獲得および既存顧客囲い込みのためのチャネル強化、金融商品/サービス拡充、または顧客企業支援、地方創生といったエコシステム強化のIT支出へ優先度がシフトしている。さらに発展して新たなビジネスモデル構築を目的とした新規分野への参入、金融サービス提供を行う他の産業分野の企業への支援のためにBaaSまたは組込型金融といったサービスを提供するケースが増加しており、円滑に提供できるように経営陣がリーダーシップを発揮し業務システム刷新、または顧客データ管理強化といった全社的なプロジェクトを行う金融機関も増加している。その他の分野においては、脱炭素などのSDGs/ESGの取り組みが自社内だけではなく、投融資先に対しても支援、誘導が求められていることから、大手金融機関を中心に支援のためのIT支出が今後拡大するとみている。

国内金融機関では現状では「デジタルレジリエンシー」の認識は少ないものの、事業継続、拡大を目的にDX推進の取り組みを行っている。一方で、着手するDXプロジェクトは、他のDX案件、既存システムとの間で連携などが不整合になるケースが存在し、期待通りの成果が得られなくなる懸念もある。

IDC Japan ITスペンディング リサーチマネージャーの市村仁氏は、次のように分析している。「ITサプライヤーは、このような金融機関に対して全社で整合性のあるDX推進のロードマップとして『デジタルレジリエンシー』を採用することで各施策の位置づけ、優先順位などを明確化することが有効である」