花王ヘルス&ウェルネス研究所と、弘前大学大学院医学研究科の中路重之特任教授の研究グループは、65歳以上で内臓脂肪が多い人は、認知機能が有意に低下しており、脳の構造異常も発生していることを確認したと発表した。

同研究の詳細は、2021年8月4日付の神経科学に関する国際学術誌「Brain Sciences」に巻頭論文として掲載された

肥満には、主に皮下脂肪型と内臓脂肪型の2つのタイプがあり、そのうち内臓脂肪型は、おなかを中心とした内臓の周りに脂肪がついた肥満のことで、生活習慣病の発症リスクと関係することが知られている。

しかし、内臓脂肪を正確に測定する方法はコンピューター断層撮影(CT)検査が一般的で、その侵襲性や測定の煩雑さから医学的な研究はあまり進んでいないという。

また認知症は、近年の研究から予防が重要視されるようになってきており、予防因子の1つとして、肥満抑制が重要であるという研究報告もあるものの、腹囲やBMIを指標とすることには限界があることもわかってきているという。

そこで今回、花王とパナソニック アプライアンス社が共同開発した非侵襲で内臓脂肪の測定が可能な医療機器「内臓脂肪計」を用い、内臓脂肪と認知機能の関係性について調査を行ったという。調査対象となったのは、2016~2017年に実施された弘前大学COIが実施する大規模なコホート研究「弘前市いきいき健診」に参加した65~80歳の方のうち、認知症と診断された方などを除く2364名。

内臓脂肪計で測定して得られた内臓脂肪量の中央値を基準に内臓脂肪が多いグループ(N=1143)と少ないグループ(N=1221)に分けたほか、認知機能については、認知症のスクリーニング検査「MMSE」を用いて評価し、脳の構造は、核磁気共鳴画像法(MRI)を用いて、脳萎縮、白質病変、側脳室周囲病変、血管周囲腔拡大、脳出血について調査を実施。評価結果の検討の際には、これまでに認知症に関係すると報告されている因子(高血圧、糖尿病、うつ、喫煙、飲酒など)の影響がないように調整を行なったという。

その結果、内臓脂肪が多いグループは、少ないグループと比較して、MMSEのスコアが低く、認知機能が有意に低下していることが確認されたとする。

  • 内臓脂肪と認知機能の関係性

    内臓脂肪と認知機能の関係性 (出典:花王)

これは、これまでに認知症に関係すると報告されている因子の影響を除いた後の結果であり、内臓脂肪は、これらの因子とは独立して、認知機能と有意に関係することを示す結果であるとするほか、内臓脂肪と脳の構造異常との関係性を検討したところ、内臓脂肪が多いグループは、少ないグループと比較して、白質病変および血管周囲腔拡大を有意に発症していることがわかったという。なお、認知症の患者では、白質病変などの脳の構造異常を生じていることが報告されている。

  • 内臓脂肪と脳の構造の関係性

    内臓脂肪と脳の構造の関係性 (出典:花王)

研究グループは、今回の調査から65歳以上で内臓脂肪が多い人は、認知機能が低下しており、脳の構造異常も発生していることが確認されたことから、内臓脂肪を減らすことは、これまでも言われていたような高血圧などの循環器疾患リスクを減らすだけでなく、認知症リスクを減らすことにも寄与する可能性が示されたとしているほか、花王としても、引き続きさまざまな視点から内臓脂肪に関する知見を探究し続けることで、世界中の人々の健康づくりに貢献していくとしている。