ESGは義務・コストではなく、投資と見なす

SDGsと並んで、最近よく聞くようになった言葉に「ESG(Environment:環境、Social(社会)、Governance(ガバナンス)」がある。ESGはSDGsと無関係ではなく、持続可能な世界の実現に向けて、企業が長期的成長を果たすために重要な視点とされている。

今回、ゴールドマン・サックス証券の元副会長、チーフ日本株ストラテジストを務めたキャシー松井氏と時田氏が、企業はいかにしてESGを経営戦略に盛り込むべきかについてディスカッションした。

  • ゴールドマン・サックス証券 元副会長、チーフ日本株ストラテジスト キャシー松井氏

松井氏は、ESGが注目を集めている背景について、「企業経営において、財務情報とあわせて非財務情報も重要であることがわかってきた。また、ESGができたことで、株主の利益だけでなく、すべてのステークホルダーのために、企業が存在していることが強調されるようになってきた。今や、ESGはメインストリームになっている」と述べた。

時田氏も「お客さまやパートナーとのコミュニケーションにおいて、ESGの言葉や意味が伝わってくることが増えてきた。ESGと事業のリンクが弱いと、企業自体の価値が弱いというインパクトを与えてしまうまでになってきている」と、ESGが企業経営に与えるインパクトの大きさを語った。

ただし、松井氏は「ESGが義務になってしまうとワークしない。ESGを経営戦略のコアに組み込むことで、イノベーティブな商品開発につながり、市場開拓のアイデア、リスク管理にも役立つ。企業では、ESGを義務やコストと捉えるのではなく、投資という考え方に切り替えることが必要」と、ESGを投資と見なすことが、経営戦略に生かすポイントであることを説明した。

ESG経営のコツは全従業員を巻き込むこと

そして、時田氏は富士通がパーパスドリブン経営にチャレンジしているが、それを従業員に理解してもらうことが難しいことを実感しており、どうすればうまくいくのかと、松井氏に質問を投げかけた。先述したように、富士通のパーパスにはESGの要素が盛り込まれている。

この問いに対し、松井氏は「マテリアルなファクターを決めることが重要であり、その後に、ESGそれぞれのゴールを決める。これを特定の部門がやるとオーナーシップが感じられなくなるので、従業一人一人を巻き込む必要がある。長い道のりだと思うが、今の世の中に求められていること」と答えた。

富士通グループはグローバルで12万人の従業員を抱えているが、「いろいろな人を巻き込むことが大事であることはわかったが、多様な12万人すべての従業員を巻き込んでパーパスに向かわせるにはどうしたらいいのか」と、時田氏はさらに問うた。

松井氏はグローバルな人材がいることはラッキーなこと。一人一人のポテンシャルを生かすのが社長の仕事だが、それには心理的な安全性がある場所を作る必要がある。例えば、無意識バイアスに関するトレーニングを管理者に限定せずに、全従業員に実施するといった取り組みがある。効果がわかるように、定量的な物差しも重要となってくる」と、従業員をパーパスドリブン経営に取り込むポイントを紹介した。

さらに松井氏は、ESG経営を進めるコツとして、「企業と接して感じていることは、ESGの目標を定める際に大胆なゴールになりがちなこと。ESGはスモールサクセスを重ねていくことが大事であり、進捗を見ることで、次のプログレスにつなげることができる。そこでは、お客さまや従業員のインプットも組み込んでいく」と述べた。

ESGが注目を集めるようになり、どう取り組むべきか悩んでいる企業も多いのではないだろうか。従業員がその企業で働く目的を明示する上でも、ESGへの取り組みは役に立つと言われており、特に若者世代は企業のSDGsやESGに対する姿勢を注目している。企業の持続性を保つためにも、SDGsやESGに積極的に取り組んでいきたいものだ。