豊橋技術科学大学(豊橋技科大)は7月9日、全固体ナトリウムイオン二次電池用の固体電解質として、硫黄の一部を塩素に置換した「Na3SbS4」を開発し、置換なしの試料と比較して、室温におけるイオン伝導率が3倍向上したことを確認したと発表した。

同成果は、豊橋技科大 電気・電子情報工学系 材料エレクトロニクス分野の蒲生浩忠大学院生、同・Nguyen Huu Huy Phucポスドク、同・武藤浩行教授、同・松田厚範教授らの研究チームによるもの。詳細は、エネルギー変換と貯蔵に関連する材料、工学、化学、物理学、生物学などを扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。

リチウムイオン電池(LIB)は、希少金属を使用していること、構造的に発火の危険性を抱えていることの2つが将来の活用に向けた課題として知られている。

そこでリチウムイオン電池に代わる入手しやすい材料で高性能な蓄電池を実現することが求められているほか、発火の危険性についても個体電解質を用いることによる解決が求められている。特に全固体電池は、従来型リチウムイオン電池に置き換わるものとして、リチウム系を中心に開発が進められているが、それだと希少金属であるリチウムを使用するという課題は解決されないこととなる。

Naイオンを用いた全固体電池(全固体Naイオン二次電池)の実用化には、室温で高いイオン伝導性を示す固体電解質の開発が必要不可欠で、Na固体電解質の中でも「Na3SbS4」は、室温で1mScm-1以上の高い導電率を示すことから、国内外で広く研究が進められている。しかし、その高い導電率の達成には「ボールミリング処理」による後処理が必要であり、より簡易的な合成プロセスで高いイオン導電率を実現することが課題となっていた。そこで研究チームは今回、量産に適した液相合成法を用いて、Naイオン固体電解質の開発に挑んだという。

その流れで、今回開発されたのが、硫黄の一部を塩素に置換した固体電解質「Na3SbS4」だという。室温でのイオン導電率は、置換なしの試料が0.3mScm-1なのに対し、塩素置換によってその3倍の0.9mScm-1を記録したという。

さらに、塩素に置換したNa3SbS4固体電解質は、塩素置換なしの試料と比べて、Na負極に対して優れた安定性を示すことも見出された。この電気化学的な安定性の改善は、負極と固体電解質の間の界面抵抗の低減につながり、塩素の多量添加は負極に対する安定性の改善に効果的であることが実証されたという。

研究チームでは、今回の成果を踏まえ、高イオン伝導性や優れた電気化学的な安定性など、望ましい特性を備えた理想的な固体電解質の開発に向けて、重要な設計指針が見出されたとしている。また、今回開発された固体電解質と液相コーティング技術を組み合わせることにより、全固体Naイオン二次電池の高い蓄電容量および安定なサイクル特性の達成につながることが考えられるとしている。

  • Na全固体電池

    可視化した3次元イオン拡散経路(黄色の曲面)を重ね合わせた、硫黄の一部を塩素に置換したNa3SbS4の結晶構造 (出所:豊橋技科大プレスリリースPDF)