森林研究・整備機構の森林総合研究所 立地環境領域・土壌特性研究室の藤井一至 主任研究員が研究を進めている「熱帯荒廃地の炭素貯蔵を高める人工土壌のデザイン」が特に日本国内で脱炭素プロジェクトを進めている方面から注目を集め、その研究成果が出ることに期待が高まっている。

その理由は、この研究テーマが「これまでは土壌の酸性化は土壌劣化そのものと考えられてきたが、地球温暖化の要因と考えられているCO2(二酸化炭素)の炭素固定・貯留を可能とする機構として利用でき、かつ土壌改良を進める可能性が高いことを示す独創的な中身になると予想できるから」と、藤井主任研究員は説明する。

そして、「この研究テーマはこれまでの見方を一転する“逆転の発想”のテーマだからだ」と、注目を集める理由について述べた。

藤井主任研究員は、今年2月に科学技術振興機構(JST)が発表した創発的研究支援事業の第1回目(令和2年度分)に採択された若手研究者252人の一人である(筆者注)。

そして、その研究開発支援事業が始まった現在、「今回採択された252人の研究の中で、期待される研究開発テーマのアンケート調査を行った結果、藤井主任研究員の研究課題はトップ7位の中に入るものだった」とJSTは説明する。

JSTが実施している創発的研究支援事業は、内閣府・文部科学省が日本の「研究力向上改革2019」という若手研究者育成施策計画に基づいて始めた“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者を育成支援する事業で、現在はその第一期の若手研究者252人が、7年間にわたる研究を始めた段階に入ったところだ。

藤井主任研究員は、以前にインドネシア東カリマンタン州で、ムラワルマン大学と共同研究をした際に、熱帯の天然林を農地に開拓し、その後に熱帯荒廃地になり、草原になって、さらに2次林として土壌が変化する約30年間の過程を調べたところ、約30年間の中で急速に土壌が有機物を蓄積する現象を見出した。これは、これまでの想定を覆す現象だった。

  • 土壌酸性化土壌生成の駆動力になるモデル

    土壌酸性化が土壌生成の駆動力になるモデル(引用:森林総合研究所の資料)

この現象は「土壌の酸性化と植物と微生物による適応機能」と、藤井主任研究員は推測する。 そのメカニズムは「土壌のpHが6~7辺りから、3~4辺りへと酸性が高まると、リグニン分解酵素が活性化する現象がみられ、土壌酸性化が土壌生成の駆動力になる可能性が考えられる」という。

  • リグニン分解酵素が活性化する現象を示すモデル

    リグニン分解酵素が活性化する現象を示すモデル(引用:森林総合研究所の資料)

藤井主任研究員が、現在進めている研究テーマのひとつは「土壌酸性化の条件下で微生物群集の最適化を研究し、人工土壌を作製する可能性を探る」ことであり、「この中で、例えばコーヒーかすやヤシガラかすなどを添加する試みの効果を調べ、現場で検証する」と説明する。

この研究テーマから「土壌作成の加速化技術や、コーヒーかすやヤシガラかすなどの“都市ごみ”の中の一部を土壌にする」などを探る見通しだ。例えば、コーヒーかすやヤシガラかすなどの“都市ごみ”を土壌成分に変えることができれば、都市ごみの再利用や削減につながる可能性も出てくる。

藤井主任研究員は「地球の陸地面積のわずか11%で、現在の地球では約60億人分の食糧生産を続けている。これが土壌劣化を招いている。これを今回の研究テーマを進めることで、劣化した土壌を修復し、かつ同時に炭素貯留を進める技術開発につながると、人工土壌学という成果が出てくる」と説明し、“超循環型システム”構築への可能性を示唆した。

筆者注

JST、創発的研究支援事業に採択された若手研究者252人を公表