7月になると台風が日本に上陸する数も増える。過去に5月、6月に台風が上陸した年もあるが、7月、8月、9月が圧倒的に多いだろう。
そんな季節に活躍している宇宙技術、衛星がある。例えば宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発・運用している、全球降水観測計画/二周波降水レーダ(GPM/DPR)、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)などが挙げられるだろう。
定常運用から後期運用へと移行している衛星もあるが、今回はこれらがどのような衛星なのか、そしてどう貢献してきたのか、そんな話題について紹介したいと思う。
台風、ゲリラ豪雨を宇宙から観測するJAXAの衛星とは?
日本では夏から秋にかけて起きる自然災害のひとつとして台風が挙げられるだろう。ゲリラ豪雨などもある。天気予報となると気象衛星ひまわりを思い浮かべる人も多いと思う。
実は、気象衛星ひまわり以外でも、災害時などで活躍している衛星が存在しており、JAXAは自然災害を観測できる衛星を開発・運用している。
全球降水観測計画/二周波降水レーダ(GPM/DPR)
まず、全球降水観測計画/二周波降水レーダ(GPM/DPR)を紹介したい。日本と米国を中心に進めている全球降水観測計画(GPM計画)の軸になる人工衛星だ。 高度400km、重量3.85t、13m×6.5m×5mのサイズ、発生電力1.95kW(EOL)、設計寿命は3年2ヶ月という諸元だ。
ちなみに、アニメによる動画もあるのでぜひご覧いただきたい。
衛星名としてはGPM主衛星という呼び方をしている。その名の如く、全球降水観測をミッションとする衛星だ。
そのため、この衛星には、日本が開発した二周波降水レーダ(DPR)と米国が開発したマイクロ波放射計(GMI)が搭載されている。
DPRは、Ka帯とKu帯という2種類の周波数の電波を宇宙から雨や雪に照射することで、降水の分布を立体的に観測することができる。弱い雨や雪の検出はKa帯で、強い雨はKu帯を使うのだ。
ちなみにDPRはNECが担当した。世界のあらゆる場所で弱い雨から強い雨まで降水をくまなく観測できるのだ。また、GMIは、雨から常に放射されているマイクロ波を感知して、雨の強度を測定することができる。
また、GREEは、JAXAとともに人工衛星データを用いたVR/ARコンテンツの共同制作としてGPMで観測された降水データを架空の街で体験できるコンテンツ「世界一の雨降り体験VR」を開発。これに限らず人工衛星データの新たな利用開拓していくという。
水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)
次に、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)を紹介したい。GCOM-Wは、宇宙から水を見ることができる衛星だ。高度約700km、重量1.91t、設計寿命5年、5.1m×17.5m×3.4m、発生電力3880W(EOL)の諸元を持つ。
GCOM-Wは、高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)を搭載している。AMSR2は、地表や海面、大気などから自然に放射されるマイクロ波を観測することができる。
このマイクロ波から水に関するさまざまな物理量を推定している。AMSR2は、直径が2mほどのアンテナを1.5秒に1回転させて地球上の表面を円弧上に走査している。これにより、わずか2日で地球上の99%を観測することができるのだ。
AMSR2は、大気中の降水量、水蒸気量、雲水量、海水温度、陸上の土壌水分量、積雪深、海氷を観測している。これらのデータで北極域海氷分布の観測、エルニーニョ、ラニーニャ傾向の観測、漁場の把握に活用したり、下図に示すように気象庁の降水予測にも使われたりしている。
陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)
そして、最後は陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)。この衛星はレーダ衛星というリモートセンシング衛星で、衛星から放射され、地表面から反射される電波を受信して地表面のモノや変化を捉えることが可能で、高度628km、16.5m×3.7m×9.9m、2.1t、設計寿命5年発生電力5300Wの諸元を持つ。
ALOS-2は、Lバンド合成開口レーダアンテナ(PALSAR-2)を搭載している。PALSAR-2は、三菱電機が開発した。上図の白い四角のものが展開前のPALSAR-2。
ALOS-2は、災害状況の把握に役立っている。台風などによる土砂災害、河川氾濫、浸水、洪水の状況などを知ることができる。例えば、2020年7月の九州豪雨の緊急観測を行った。その結果洪水域の推定画像を迅速に撮像している。
JAXAはGPM主衛星を中心として、GCOM-Wなどの衛星を組み合わせて、世界の雨のマップ「衛星全球降水マップ(GSMaP)」を開発した。GSMaPは世界での利用ユーザが138カ国にも及び、降水監視・洪水予測・干ばつ監視・農業といった分野で利用されているのだ。
2021年3月1日には、GSMaPが、その功績を認められ「台風委員会(Typhoon Committee)」の活動に大きく貢献した機関を対象に授与される賞「キンタナール賞」を受賞している。
いかがだっただろうか。日本のJAXAの衛星がいかに活躍しているかご理解いただけただろうか。これからも、今回紹介した衛星の後継機や新しい観測装置を搭載した衛星が開発されるだろう。
日本の天気予報はとても的中率が高い。これは、日本での気象情報だけで予測しているのではない。
世界各地の温度計、風速計、雨量計、そして地上のレーダの観測データ、そしてこれらの衛星のデータをスーパーコンピュータで解析することで予測しているのだ。
近年は、AIによる天気予報もあり高い精度で的中している。これらのデータをディープラーニングさせているのだ。と話は尽きないが、このように台風の時期に活躍しているJAXAの衛星など宇宙技術を思い出していただけると幸いだ。