Formlabs(フォームラブズ)は6月1日、卓上型粉末焼結(Selective Laser Sintering:SLS)方式の3Dプリンタ「Fuse 1」の日本国内市場での受注および出荷開始を発表した。

また、Fuse 1の発売に併せて、後処理用のハードウェア「Fuse Sift」、Fuse 1のために開発された粉末素材「Nylon 11 Powder」と「Nylon 12 Powder」、エアフィルタなどの消耗品も同時に展開を行うとしている。

同社はこれまで、光造形(SLA)方式のプリンタ「Form」シリーズを展開してきた。今回、新たにSLS方式のプリンタを上市する理由を「SLA方式のプリンタは試作という位置づけが強かったが、より製造に近いところ、もしくは製造そのものに使用できる丈夫で機能的なパーツをつくるプリンタとして、SLS方式プリンタを販売する。新しい一歩という位置づけだ」と説明する。

最終製品製造まで対応できるFuse 1

SLS方式とはレーザを用いて、材料であるナイロン粉体を焼結させて造形を行う方式。メリットは、材料となるナイロン粉体が比較的安価であること、ナイロン粉体が機能的で耐久性があるためプロトタイプだけでなく最終製品まで作成が可能であること、パーツを粉体で支えるためサポート材が不要であることなどが挙げられる。

Fuse 1が狙ったのは、SLS方式のメリットをそのままに「使いやすく、値段も安く、高性能なSLS方式プリンタ」だといい、Fuse 1の提供価格は284万3500円に設定されている。

  • Fuse 1

    Fuse 1の外観 (提供: Formlabs)

  • Fuse 1で製作されたサンプル

    Fuse 1で製作したサンプルパーツ(ナットは後から既製品をはめ込んでいる)

同製品の造形エリアの規模は165mm×165mm×300mmで、積層ピッチは110μm。

出力したパーツは、最終製品としても出荷できる強度と精密さをもち、数百~数十個程度の量産にも対応が可能だという。実はFuse 1やFuse SiftにもFuse 1で出力したパーツを用いているそうだ。

  • パーツ
  • パーツ
  • 粉体が入ったケースとSift本体を接合させる部分に使用されたFuse 1で出力したパーツ(灰色の部分)

造形の際には、現在特許を出願中だという同社独自の「Surface Armorテクノロジー」が使用されている。

同社によると、同技術は造形したパーツの品質や機械的特性を維持できるように開発された半焼結シェルで造形部分を保護しながらプリントしていくものだという。

  • Surface Armor テクノロジーの概念図

    Surface Armor テクノロジーの概念図。青の部分が半焼結シェルで灰色の造形部分を保護する役割を持つという (提供:Formlabs)

また、サポート材を必要とせず、パーツパッキングの自動計算アルゴリズムにより、数多くのモデルをビルド内に入れて、設計することで生産性を担保できるともしている。

  • Fuse 1

    Fuse 1で出力したFuse 1のミニチュア模型(15分の1サイズ)。9個×4段で36個の出力を一度に行ったという。造形時間は約60時間

なお、スループットの効率をより高くする方法として、同社は造形用のビルドチャンバーを2つ用いることを提案している。

というのも、造形の前には、Fuse 1内の余熱が必要で、プリント後には冷却が必要となる。冷却はFuse Siftを導入していれば、一定時間後にFuse Sift内で冷却ができることから、ビルドチャンバーを2つ導入することで、Fuse Siftで冷却を行っている間にもうひとつのチャンバーの余熱を開始し、生産効率をより高めることができるためだという。

”簡単に使用できる”にこだわった設計

では、次に実際に使用する際の機能について触れていきたい。

プリントのセットアップ作業には、プリント準備ソフトウェア「PreForm」を利用する(PreFormは既存のFormシリーズでも使用されているため、すでに利用しているユーザーはそのままの活用が可能)。

  • PreForm画面

    先ほどのFuse 1のミニチュア模型を準備する際のPreFormの画面(提供:Formlabs)

Fuse 1側の準備も、簡単に済むように設計されており、タッチパネルで次の工程手順がすべて指示されるようになっているため、それに従うだけで良い。

  • タッチパネル

    Fuse 1本体の上部に設置されているタッチパネル。工程に沿って指示がでるようになっている。準備時に不具合がある場合は内部センサーで察知し、どこに不具合があるのかを教えてくれる仕様だ

プリント中も、進捗状況をプリンタ内に設置されているカメラを通し、リアルタイムで確認することができる。映像はタッチパネル上でも、PreForm上でも確認が可能なため、遠隔地でも状況の確認ができるという。

  • チャンバー内の様子

    装置内のカメラでチャンバー内が映っている様子

SLSに必要な後処理工程をラクにするFuse Sift

SLS方式プリンタでは粉体を材料に使用するため、粉の吸引などの後処理が必要となってくる。そこで、Fuse 1とセットで使用するために開発された後処理用のハードウェアがFuse Siftだ。

実は、このFuse SiftがFuse 1を使用する上では肝になる製品だといっても過言ではないという。

  • Fuse Sift

    Fuse Shift(提供: Formlabs)

Fuse Siftは「いかに自動的に、確実に後処理を行うことができるか」を考えて設計されたものだしている。

造形が終了したビルドチャンバーをFuse Siftにそのまま移行することができ、内蔵されている陰圧システムにより、粉塵が飛散するのを防止しながら粉体を掃除することができるそうだ。

また、SLS方式プリンタでは使用済みの素材粉末と新しい粉末を混ぜることで、もう一度素材として活用することができるが、Fuse 1は30~50%のリフレッシュ率でプリントを行うことができる(リフレッシュ率は必要な新しいパウダーの割合)。使用済みパウダーと未使用パウダーの配合は、Fuse Siftのタッチパネルで操作を行えば自動的に設定した割合で供給を行うという。

  • 配合の様子

    Fuse Shiftのタッチパネルで粉体の配合を行う様子

もともと、クライアントの「最終製造に利用できる3Dプリンタのラインナップを」というニーズに応えるべく、開発を開始したというFuse 1。同社はFuse 1の提供により、予算が限られている企業でもSLS方式のプリンタを活用し、製造までを行うことができるようになるとしている。