米国の宇宙旅行会社スペース・アドベンチャーズは2021年5月13日、実業家の前澤友作氏と、同氏の関連会社の役員を務める平野陽三氏の2人が、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙旅行に飛び立つと発表した。

打ち上げは今年12月8日の予定で、ISSには12日間滞在する。

実現すれば、民間人の宇宙旅行者として8、9人目となる。また、日本の民間人が宇宙に行くのは、TBSの社員で日本人初の宇宙飛行士となった秋山豊寛氏以来、31年ぶり。ISSに滞在するのは初となる。

  • 前澤友作

    宇宙飛行に向けた準備を行う前澤友作氏 (C) Space Adventures

前澤氏らの宇宙旅行

前澤友作氏は1975年、千葉県生まれで現在45歳。ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の創業者として知られる。2019年9月に同社のCEOを退任したあとは、「スタートトゥデイ」を立ち上げ、自社事業を含む13の事業を営んでいる。

同行する平野陽三氏は、1985年愛媛県生まれ。2007年、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイに入社し、フルフィルメント部門の責任者として従事。現在は前澤氏の会社「スペーストゥデイ」で映像プロデューサーを務めている。

スペース・アドベンチャーズによると、前澤氏らは宇宙飛行に必要な健康診断に合格。ISSへのミッションに向けた準備を開始したという。6月から約3か月間、ロシアの「星の街」にあるユーリィ・ガガーリン宇宙飛行士訓練センターで、宇宙飛行に向けた訓練を開始するとしている。

無事に訓練を終えれば、12月8日にロシアの「ソユーズMS-20」宇宙船に搭乗し、船長を務めるロシア人のアレクサーンドル・ミシュールキン宇宙飛行士とともに、バイコヌール宇宙基地から出発。ISSに約12日間滞在する計画だという。

前澤氏は「『宇宙での生活ってどんなものなんだろう』と、ずっと興味津々でした。そこで、自分で実際に体験し、それをYouTubeを通じて世界に発信しようと思います」とコメントしている。平野氏は、同ミッションの撮影、記録を担当する。

前澤氏はかねてより準備を進めており、2019年9月には、「近々宇宙に行きます。月よりも近場に行きます。英語やロシア語を勉強します。これについてはあらためてご報告します」と明らかにしていた。

前澤氏はまた、今回の宇宙飛行とは別に、米宇宙企業スペースXとの間で、宇宙船「スターシップ」を使用した月飛行ミッションも契約しており、2023年に飛行が予定されている。

  • 前澤友作

    前澤氏らが搭乗するソユーズ宇宙船の同型機「ソユーズMS-17」 (C) NASA

31年ぶりに日本の民間人が宇宙へ

今回のミッションが実現すれば、1990年にTBSの社員として宇宙へ行った秋山豊寛氏以来、31年ぶりに日本の民間人が宇宙に行くことになる。

なお、秋山氏はソ連の宇宙飛行士の資格のひとつ「宇宙飛行士研究者(Kosmonavt-issledovatel)」の資格を得たうえで飛行したが、前澤氏と平野氏は、英語では「Spaceflight participant(宇宙飛行参加者)」、ロシア語では「kosmicheskiy turist(宇宙旅行者)」という肩書きでの飛行となり、「宇宙飛行士」ではない。宇宙飛行参加者としての飛行は、前澤氏と平野氏が日本初となる。

また、秋山氏はソ連・ロシアの宇宙ステーション「ミール」に滞在したため、日本の民間人としてISSに滞在するのも前澤氏らが初となる。

スペース・アドベンチャーズ(Space Adventures)は1998年の設立以来、民間人の宇宙旅行事業を手掛けており、2001年には世界初の宇宙旅行者として、米国の実業家デニス・チトー氏がソユーズで飛行し、ISSに滞在した。

その後も、ソフトウェア・エンジニアのチャールズ・シモニー氏が2007年と2009年に2回飛行するなど、これまでに7人が計8回の宇宙旅行を行っている。前澤氏と平野氏の飛行が実現すれば、8、9人目となる。

これまでも日本人が申し込みや飛行に向けた訓練を行ったことはあるが、医学的な理由などでいずれも宇宙飛行は実現していない。

スペース・アドベンチャーズの会長兼CEOであるエリック・アンダーソン(Eric Anderson)氏は、「ISSへの観光ミッションは約10年ぶりで、2人の宇宙飛行参加者が一緒に飛行するのは今回が初めてとなります。前澤さんの飛行が実現することを光栄に思うとともに、楽しみにしています」とコメントしている。

前澤氏らの飛行にかかる費用は明らかにされていない。2001年にデニス・チトー氏が飛行した際は約2000万ドルだったが、2008年にリチャード・ギャリオット氏が飛行した際は約3000万ドルだったとされ、ロシア経済の回復とともに値上がりしている。そのため、今回の飛行も1人あたり3000万ドル以上、場合によっては2倍近い金額になっているとみられる。

また、初となる2人の宇宙飛行参加者が搭乗できることになった背景には、ソユーズ宇宙船をめぐる状況の変化も手伝ったものとみられる。

ロシアはここ10年、NASAにソユーズの座席を販売し、米国や欧州、日本の宇宙飛行士をISSへ輸送しており、とくに米国のスペース・シャトルの引退後は、ISSに宇宙飛行士を輸送できる唯一の手段となっていた。そのため2019年時点で、ロシアはNASAに対し、1人あたり約8000万ドルもの運賃を取っていた。

しかし、米国でスペースXの民間宇宙船「クルー・ドラゴン」が実用化されたことで、ソユーズを使う必要がなくなり、ロシアにとっては今後NASAからの収入が得られない見込みとなった。そのため、外貨獲得のため、また座席数にも余裕が生まれることもあり、今後は宇宙飛行参加者(宇宙旅行者)の受け入れを積極的に進めていくものとみられる。

またスペースXや、宇宙旅行会社のアクシアム・スペースも、クルー・ドラゴンを使った宇宙旅行の実施を発表しており、今年末から来年初めにかけて打ち上げが予定されているなど、宇宙旅行ビジネスがにわかに活発になっている。

  • 前澤友作

    前澤氏らが滞在する国際宇宙ステーション(ISS) (C) NASA

参考文献

Space Adventures' Client, Yusaku Maezawa, Plans for Mission to the International Space Station - Space Adventures
MS-20 - Space Adventures
Space Station Experience
TRENT | TEAM