「2023年、人類はふたたび月を目指す」――。

実業家の前澤友作氏は2021年3月4日(日本時間)、月飛行を目指した宇宙プロジェクト「dearMoon」の同乗者を、世界中から8人募集すると発表した。

応募条件は主に3つで、インターネットを通じて公募する。飛行には米宇宙企業スペースXが開発中の巨大宇宙船「スターシップ」を使う。打ち上げは2023年の予定で、実現すれば民間人初の月への飛行となる。

はたしてdearMoonとはどのようなものなのだろうか? どうやって月へ行くのだろうか? そしてどんな人が選ばれるのだろうか? さまざまな疑問について、dearMoon PR事務局にお話を伺った。

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    月の上空を飛ぶスターシップの想像図 (C) dearMoonプロジェクト

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dearMoon(ディアムーン)は、前澤友作氏が主催する宇宙プロジェクトで、前澤氏と、招待された民間人などあわせて10~12人が月へ行くという壮大な計画である。

打ち上げは2023年の予定で、スペースXが開発中の巨大ロケット「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」と、それによって打ち上げられる巨大宇宙船「スターシップ(Starship)」を使う。

前澤氏らを乗せたスターシップは打ち上げ後、「自由帰還軌道(free return trajectory)」と呼ばれる軌道に乗り、月へ向かって飛行。そして月の裏側を回って地球へ帰還する。打ち上げから帰還まで約1週間の旅となる。

月のまわりを回る軌道に入ったり、月面に着陸したりはできないが、自由帰還軌道に乗ると、基本的にエンジンを噴射する必要はなく、放っておいてもかならず月でUターンして、地球へ戻ってくることができるため、比較的安全性が高い。また、最接近時には月から200kmほどにまで近づくことができ、また条件によっては、月の裏側を通り抜ける際に地平線から昇る地球を見ることもできる。

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    月の上空を飛ぶスターシップの想像図 (C) dearMoonプロジェクト

ミッションの費用は明らかになっていないが、約1000億円ほどと考えられている。前澤氏がその全額を負担するとし、すでに2018年にスペースXと契約を締結。同乗者は文字どおりただで乗ることができる。

dearMoonプロジェクトについて、前澤氏は「僕が一番楽しみにしているのは、自分の生まれた故郷、丸く青く輝く地球を自分の目で確かめること。そして月からグルっと回って出てくるときにアースライズという現象がもしかして見れるかもしれません。日の出(サンライズ)と同じように、地球がまるで日の出のように月の端から浮き上がってくる、そんな光景を目にしたとき、どんな感動が待っているんでしょうか」と、期待を語る。

また、「なぜ月に行くのか?」という根源的な問いについては、「理由は3つあります。1つ目は、好奇心。まだ見たことのないもの、行ったことのない場所に行きたい、という好奇心を満たしたい。2つ目は、地球の素晴らしさを改 めて感じたい。自分の生まれ育った地球、偉大な地球、ここに改めて感謝したい。3つ目は、自分の小ささ、未熟さを改めて実感したい。そういうことを通して、もっと頑張ろう、もっと成長しよう、きっとそう思えるんじゃないかと思っています」と語っている。

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    dearMoonプロジェクトについて語る前澤友作氏 (C) dearMoonプロジェクト

参加者のうち8人を世界中から公募へ

dearMoonプロジェクトはもともと、2018年9月に初めて明らかにされ、今回約2年半ぶりに大きな発表がもたらされた。

同プロジェクトは当初、「各界を代表する最大8人の世界的なアーティストを招待する」とされていた。しかし今回、新たに世界中から公募することが明らかにされた。

アーティストを招待するのではなく、広く世界中から公募することにした理由について、dearMoon PR事務局によると「当初は前澤自身がアーティストを招待しようと考えていましたが、それだけではただのプライベート(個人的)な宇宙旅行になってしまいます。『宇宙が多様な人々の目の前に広がっている』という、宇宙の民主化の意義を考え、世界中から募集することに至りました」と説明している。

また前澤氏は「2年前は『アーティストを募集する』としていましたが、アーティストの定義があやふやでした。そのうち、なんでもいいからクリエイティヴな仕事をしている人みんなをアーティストと呼んでもいいじゃないかと考えるようになりました。そこで、『世界中の人々にチャンスを与えられるんじゃないか』、『自分で「私はアーティストです」と言っている人みんなを招待してもいいじゃないか』と思うようになりました」と語っている。

応募にあたっては

  1. 宇宙に行くという経験を活かし、社会や人の役に立つための自身の活動を、 圧倒的に伸ばし加速させることができる人
  2. 同じ船に乗る仲間の活動を、自身の活動と併せて全力で応援し協力できる人
  3. 2023年に予定している打ち上げ日の6か月前に18歳になっていること

の、3つが条件となっている。

dearMoon PR事務局によると「前澤、およびdearMoonとしては、この3つの応募条件に該当する方々すべてを受け入れたいと考えています」としている。

選考は5段階に分かれており、まずdearMoonプロジェクト公式サイト内にあるエントリーページから行う事前登録(3月14日締め切り)からスタート。登録した人は全員、次のSTEP2の書類選考(3月21日締め切り)に応募できる。その後、STEP3の課題選考、STEP4のオンライン面談、そしてSTEP5の最終面談・メディカルチェックを経て、徐々に絞り込んでいく。

すでに3月5日の時点で、239の国と地域から50万件以上の応募が集まっているという。その内訳は、多い順に、インド、米国、イラン、トルコ、フランス、日本、英国、メキシコ、スペイン、カナダ、コロンビア、ロシア、ドイツ、バングラデシュ、ブラジルとしている。

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    dearMoonプロジェクトのクルーの募集を呼びかける前澤友作氏 (C) dearMoonプロジェクト