NXP Semiconductorsは12月7日(オランダ時間)、車載向けの新しいレーダーソリューションを発表した。これに関してNXPジャパンより説明会がオンラインで開催されたので、この内容をお届けしたい。

今回の製品の背景にあるのは、今後急速に自動車にレーダーが装着されるとみられている事にある(Photo01)。

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    Photo01:さすがにフルカバレージになる右端の様な構成は高級車のごく一部に限られるが、Level 1のDrivers Assistanceに向けて前方と後方にレーダーを搭載する比率は40%にも達する、としている

もともと事故防止や死亡事故低減に向けて新車に様々な安全装備を増やす方向にあるのはご存じの通りであり、それもあって車載用レーダーの市場は今後3倍の速度で成長するとみられている(Photo02)。

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    Photo02:2020年が車に平均1台のレーダー搭載なのが、2025年にはこれが2台になり、その先では5台以上に増えるとすれば、それは確かに成長率が急激に向上するだろう

ちなみにまずは前方レーダー、次いで全周をカバーするコーナーレーダーとなり、最終的には4Dレーダー(3次元+時間で、対象物を点群として捉えて補足追跡するレーダー)を利用したイメージングレーダーが視野に入っているとする。

こうした成長の見込めるマーケットに向けて、NXPが今回発表したのがレーダートランシーバの「TFE8x」と、レーダープロセッサ2製品である(Photo03)。

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    Photo03:車載グレードプロセッサとしては初の16nm FinFETというあたりで、TSMCが2017年からRisk ProductionをスタートしたAutomotive Gradeの16FFCプロセスを利用したものと想像される

これを組み合わせる事で、長距離レーダーやコーナーレーダー、イメージングレーダーまでが全部カバーできるという話だ(Photo04)。ちなみにローエンドからハイエンドでは、性能が6~50倍ほどスケールする、とされる。

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    Photo04:Imaging Raderには相応の演算能力が必要なので、ここにはハイエンドのS32R45を。その他のものだと基本レーダーの制御だけでいいのでS32R29xを充てるという格好。フロントエンドはTFE82xxを必要に応じてカスケード接続する格好だ

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    Photo05:Post Processingが50倍も異なるのは、専用のアクセラレータを内蔵しているため。これは後述

さて実際の製品であるが、レーダートランシーバは共通の「TEF82xx」で、これは先ほども出てきたが最大4つまでカスケード接続が可能である。これに組み合わせるデジタルバックエンド向けに、「S32R29x」と「S32R45」という2種類のプロセッサが用意される。まずTEF82xxであるが、これは受信×4・送信×3のMIMOサポートを内蔵したAFEである。対応するのは77GHz帯だが、最大4GHzの帯域を利用可能とされる(Photo06)。

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    Photo06:ブロック図の一番下に“Expansion Interface”があり、これを利用して最大4つまでのカスケード接続が可能。4つつなげると、ホストからは送信×12、受信×16のレーダーAFEとして見える格好になる

次いでハイエンド側のレーダープロセッサである「S32R45」(Photo07)であるが、ハイエンドだけあって機能がフル実装である。

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    Photo07:LAXは汎用の数値演算向けではなく、それこそDoAアルゴリズムの高速化を狙ったものであり、それもあって敢えて線形代数アクセラレータというあまり馴染みのない名称にしたと思われる

ここでLAX(Linear Argebra Accelerator:線形代数アクセラレータ)とあるのは、4Dレーダーを利用してのDoA(Direction of Arrival:到来方向推定)を計算するためのもので、これ単体で300GFlopsの演算性能を持つ。全体の構成はPhoto08の様になっており、かなり重装備のプロセッサとなっている。

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    Photo08:3つのCortex-M7プロセッサはFlexible LockStep構成となっており、レーダーの制御そのものはこちらで行うものと思われる。一方4つのCortex-A53は、これもFlexible LockStep構成で、レーダーの測定結果の後処理を行う格好である

一方ローエンドのレーダープロセッサである「S32R294」は、より単純なレーダーに向けたもう少しシンプルな構成である(Photo09)。

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    Photo09:コーナーレーダーとか、長距離の測距レーダーなどの用途向けということになる。TEF82xxは2つまで接続可能

こちらは低コストを狙ったためか、PowerPCベースのe200コアベースの製品である(Photo10)。

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    Photo10:レーダーの制御はLockstep構成のe200z4コアで、それとは別に後処理用にe200z7コアを2つ搭載するという、低価格向けとは思えない重装備ではある

これらの製品を利用するとどんなことができるのか? という実例であるが、まずS32R45の場合は先ほどからも出てきた4D Imaging Raderを容易に構成でき、またFPGAよりも低消費電力・低コストで実現できる点を売りとしている(Photo11)。

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    Photo11:仮想アンテナシステムは色々方法があるが、NXPが想定している方式がどんなものかはちょっと興味がある。現状こうした方式はFPGAを利用した実装が主であるが、そこにASSPを投入することでシェアを握りたい、という事と思われる

一方フロントレーダー(Photo12)とかコーナーレーダー(Photo13)は、到達距離や精度こそ求められるものの、4D Image Raderほど複雑な後処理は必要ないため、S32R294で十分という訳だ。

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    Photo12:端的に言えば自車の真ん前もしくは真後ろにいる物体(≒車)までの距離が正確に測定できればいいからだ。あとはサンプリング間隔を短くして、相手との相対速度やそこから相手の加速度を算出できれば、例えば直前の車の急ブレーキを認識できるので、衝突回避や衝突警報が可能になるという訳だ

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    Photo13:コーナーレーダーは衝突防止がメインなので、ある程度の精度は必要だが、それよりも広いカバレッジ範囲をなるべく低価格で実現できることが肝になる

ここで出てくるNCAPは、自動車アセスメント団体のEuro NCAPの事であるが、そのNCAPは2022年以降のアセスメント評価に合流点/交差点対応のAEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)や対向車正面対応のAEB、自動緊急操舵、歩行者・サイクリスト保護のサブシステム改訂、緊急時の路肩寄せ・安全確保、子供の存在検知といった項目を追加することを明らかにしている。そこで、合流点/交差点における対向車検知や歩行者・サイクリスト検知などを自動車全周にわたって実施する必要が出てくる。ただ当然ながらコストを抑えつつこれを実現する必要があり、そうした用途には(邪推すればArmにライセンスフィーを払わずに済む)PowerPCベースのS32R294を利用することで実現できる、としている。

今回発表の3製品はすでにサンプルおよび評価キットを出荷中である。量産開始は2021年を予定、とのことであった。