日本電信電話(以下、NTT)と三菱重工業(以下、三菱重工)は、NTTのフォトニック結晶光ファイバ(PCF)技術と、三菱重工の高出力レーザ加工技術の融合により、kW級の高出力シングルモードレーザ光を、加工に適した品質を維持したまま数十~数百mに渡り伝送することに成功したと発表した。

  • 従来の光ファイバとフォトニック結晶光ファイバのイメージ(出所:三菱重工ニュースリリース)

    従来の光ファイバとフォトニック結晶光ファイバのイメージ(出所:三菱重工ニュースリリース)

「フォトニック結晶光ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)技術」は、NTTが研究を推進している、空孔を利用して光を閉じ込め伝搬させる技術。PCFは光ファイバ断面内に形成した空孔の直径や間隔を任意に制御することで、光ファイバ直径方向の屈折率を微細に制御することができ、従来の光ファイバでは得ることの出来ない特性を実現できる。なお、今回の成果は、5月23日・24日に大阪大学吹田キャンパスで開催される「レーザ加工学会第89回講演会」で報告される予定となっている。

  • PCFの高出力伝送能力と、作製したPCFの断面写真(出所:三菱重工ニュースリリース)

    PCFの高出力伝送能力と、作製したPCFの断面写真(出所:三菱重工ニュースリリース)

一般的にレーザ加工では、通常の光通信で使用する光の一万倍以上の高出力レーザ光を伝送する必要があるが、光ファイバで伝送できる光出力と距離には物理的な限界がある。現在広く使われているマルチモードレーザ光は、既存の光ファイバを使って数百メートルに渡り伝送することができるが、マルチモードレーザ光は高い加工精度が求められる用途には不向きとなっている。一方、より精密なレーザ加工に適したシングルモードレーザ光は、既存の光ファイバでは数メートルしか伝送することができないことから、数十メートルの光ファイバ伝送が必要な実加工には適用できなかった。

そこで、今回の共同研究では、PCFの採用による伝送出力と距離限界の克服が行われた。また、新たなPCF断面構造の考案による優れた高出力伝送能力と製造性の両立により、既存の高出力シングルモード伝送用光ファイバに比べ、伝送出力と距離の積で表される高出力伝送能力で4倍以上のポテンシャルが実現できることを明らかにした。さらに、実際に製造したPCFを用いて、10kWのシングルモードレーザ光を30m、また1kWのシングルモードレーザ光を300mに渡り伝送することに成功した。

  • 加工レーザの品質と伝送距離(上)および加工精度(下)のイメージ(出所:三菱重工ニュースリリース)

    加工レーザの品質と伝送距離(上)および加工精度(下)のイメージ(出所:三菱重工ニュースリリース)

今回の成果により、従来、10m程度しか伝送することができなかった1kWを超える高出力シングルモードレーザ光の伝送距離を、精密加工に適した品質を維持したまま、数倍から数十倍伸ばすことができるようになる。レーザ加工現場における場所の制約を排除できるだけでなく、高出力シングルモードレーザ発振器の利用効率の向上にもつながるため、切断や孔空けにおける加工精度を向上するのみならず、レーザエネルギーの効率的な利用による加工時間の短縮も可能となるという。今後は、三菱重工にて耐熱合金の孔空け加工や溶接などへの適用に向けた開発を進め、2019年以降の実用化を目指すということだ。