台湾中央研究院天文及天文物理研究所の鳥羽儀樹 研究員、工学院大学 教育推進機構の小麦真也 准教授、愛媛大学 宇宙進化研究センターの長尾透 教授らを中心とする国際研究チームは2月20日、アルマ望遠鏡を用いた観測を行ったところ、銀河の中心部に存在する超巨大ブラックホールと銀河は必ずしも影響を及ぼし合っているわけではないことが示唆される結果を得たと発表した。

同成果は、鳥羽研究員、小麦准教授、長尾教授のほか、愛媛大学の山下拓時 特定研究員、台湾中央研究院の王為豪 副研究員、国立天文台の今西昌俊 助教、台湾中央研究院の孫愛蕾 博士研究員(現:ジョンズ・ホプキンズ大学 博士研究員)らによるもの。詳細はアメリカの天文学専門誌「Astrophysical Journal」に掲載された。

最近の研究では、ほぼすべての銀河の中心部には、太陽の数十万倍から数億倍の質量を有する「超巨大ブラックホール」が存在しており、その質量が銀河の質量と強い正の相関を示すことがわかってきており、長巨大ブラックホールと銀河は、互いに影響を及ぼしながら成長する「共進化」の関係にあると考えられてきた。

この共進化の鍵を担う現象の1つとして、超巨大ブラックホールが存在する銀河中心部から強力な放射によって周囲のガスが電離されて吹き飛ばされて生じるガス流がある。ガス流は、星の材料となる周囲の分子ガスを圧縮して星形成活動を促進したり、分子ガスを拡散させて星形成を抑制したりする存在と考えられてきた。

そこで今回、研究チームは、可視光では極めて暗いものの、赤外線で明るいという特徴を持つ塵に覆われた銀河(Dust-obscured galaxy:DOG)に注目。これらの銀河の中心には活動的な超巨大ブラックホールがあると考えられており、中でも「WISE1029+0501」と呼ばれるDOGは、超巨大ブラックホール近傍からの強力な光によって周囲のガスが電離されるだけでなく、毎秒約1500kmの速度で銀河から流れ出す電離ガスも確認されており、超巨大ブラックホール起源の電離ガス流が周囲の分子ガスにどのような影響を及ぼすのかを調べることができると考え、アルマ望遠鏡を用いて観測を行ったという。

具体的には、分子ガスの性質を調べるために最適な分子である一酸化炭素分子と、星形成活動を調べる手がかりになる低温の塵とが放つ電波の検出を実施。解析の結果、分子ガスの激しい運動は見つからなかったほか、星形成活動の促進の様子も抑制の様子も確認できなかったという。

この結果について研究チームでは、WISE1029に潜む超巨大ブラックホール起源の強力な電離ガス流が周囲に特別な影響を及ぼしていないことを示唆するものであるとしており、このような状況を生み出す可能性の1つとして、電離ガスの流出方向が分子ガスの存在領域と大きく異なっていることを挙げている。分子ガスは銀河の円盤部に存在すると考えられるため、例えば電離ガスが円盤とほぼ垂直方向に吹き出しているとすると、今回の結果は説明できるという。

なお、研究チームでは、これまで超巨大ブラックホール起源の電離ガス流が周囲の分子ガスにも大きな影響を与えている報告は多数あったが、今回のように互いに影響を及ぼし合っていない様子が捉えられたのは珍しいことであり、例外となる今回の結果により、超巨大ブラックホールと銀河の共進化の謎がより一層深まったと言えるとコメントしている。

  • 今回の観測をもとに描かれた銀河WISE1029の想像図

    今回の観測をもとに描かれた銀河WISE1029の想像図。銀河中心部から電離ガス流が激しく噴き出しているが、銀河円盤と垂直の方向に流れ出しているため、円盤内の分子ガスに影響を与えていない可能性があるという (C) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)