東京工業大学は、藻類からオイルを抽出した残渣に含まれる糖質成分から化学品原料を合成する新たな化学変換プロセスを開発したと発表した。

同研究の概要(出所:東京工業大学Webサイト)

同研究は、東京工業大学(物質理工学院応用化学系)の山口渉助教と科学技術創成研究院化学生命科学研究所の今村壮輔准教授らによるもので、同研究成果は4月12日に英国科学誌ネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・レポート(Scientific Reports)」オンライン版に掲載された。

近年、石油資源の代替エネルギー源として「藻類バイオマス」が注目を浴びている。藻類の中には光合成の副産物として細胞内にオイルを蓄積する種類が存在し、単位時間・単位面積当たりのオイル生産性がトウモロコシの約800倍、パームの約23倍に及び、炭水化物の生産性がほかのバイオマス資源と比較して、極めて高いという特長がある。また、耕地として適さない土地および水域を利用して培養できるため、食糧生産と競合しないという利点もあるという。一方、藻類からバイオオイルを抽出した残渣には、デンプンを主とした糖質成分が含まれているにもかかわらず、これまで、その有効な利活用法が存在しなかった。

同研究では、「藻類バイオマス」の有効利用法の確立に向けて、藻類由来の糖質成分から有用化学品原料(レブリン酸メチル及び乳酸メチル)を選択的に合成することを目的とした。有用化学品原料のうちレブリン酸メチルは燃料添加剤に利用されているほか、さまざまな化合物に展開することで医薬品、化粧品、プラスチックなどの化学品の合成に使われる。乳酸メチルはバイオプラスチックの一つであるポリ乳酸(PLA)の原料として利用されている。結果として同研究チームは、トリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)あるいは臭化スズ(IV)という2種類の均一系スズ触媒を用いると、一段階かつ高収率の化学変換により、藻類のオイル抽出残渣からレブリン酸メチル及び乳酸メチルを合成できることを見出して実現した。この成果により、石油資源の代替になる藻類の利用価値が飛躍的に向上することになる。

なお、今回は均一系触媒による高選択的な化学変換を達成したが、本技術を実用化する上では、不均一系触媒への展開は必要不可欠となる。また、今後は、藻類内で生産される糖質の生合成(生体内での有機物の合成)に関する詳しい分子機構を明らかにし、それらの情報を基にして、バイオマス生産性を向上させた藻類株の育種を試みるということだ。