可変リファレンスのトポロジ
本稿で示した過渡シミュレーションから、各D/Aコンバータをそれぞれの直線領域のみで動作するよう較正した場合の利点がわかります。大多数のD/Aコンバータのデータ・シートでは、一般にD/Aコンバータが最も直線的に動作する領域である485d~64714d(10進数)、または0x01E5~0xFCCA(16進数)の入力コード範囲での相対精度(これはINLとも呼ばれます)が記載されています。システム全体のコード数を増やそうとするならば、0xFCFFは、まだかなり高精度の動作領域であることから、本稿で示す例では、これを最大コートとして使います。理想的なD/Aコンバータでは、入力コード0xFCFFに対応する出力電圧は、およそ2.4707Vです。この理由から、この可変リファレンスのトポロジに使うリファレンスは、抵抗で2.46Vに分圧しました。スイッチをオンにすると、D/Aコンバータ出力に、この2.46Vのリファレンス電圧が加算されます。また、D/Aコンバータの入力コードが0x0119の場合、出力はおよそ0.0107Vとなり、このステップのDNLは、1LSB(最下位ビット)と同じか、それ以下となります。この論理は、およそ5Vや7.5Vのつなぎ目でも同様に成立します。
もちろん現実世界のD/Aコンバータ製品は、これらのつなぎ目で正または負の方向の誤差を持っています。このため、DNL特性に満足できない場合、下の式3を使って新しい較正コードを見つけてください。Gainは次の電圧範囲を発生するための可変リファレンス回路のゲイン、MAXはこのD/Aコンバータの最大電圧出力に使う最大コードで、この場合は0xFCFFです。
式3の較正コードの計算にはゲイン誤差が入っていないことに注意が必要です。この理由から、DNLは1LSBを超えることがあります。この場合、式4を使ってDNLを見積り、それを元の見積較正コードから差し引いて新しい較正コードを作成してください。設計に必要なDNL特性が得られるまで、この手順の繰り返しが必要になることがあります。
A/Dコンバータを統合したマイコンでSPIバスやスイッチを制御するシステムの場合には、内蔵A/Dコンバータを活用して、システムを自動較正することも可能です。
まとめ
上で解説した2種類のトポロジでは、よりコスト効率に優れた1チャネルまたは4チャネルの16ビットD/Aコンバータを使い、それぞれのつなぎ目で低いDNL特性と、コード範囲全体での単調増加性を保持しながら、0~10Vの出力範囲で18ビットの伝達関数を発生できます。本稿では、各トポロジの利点と欠点について評価し、異なる設計目標での使い分けについても解説しました。最後に、可変リファレンスのトポロジの出力範囲のつなぎ目でのDNLを低減するための較正アルゴリズムについても解説しました。
参考情報
SPICEモデル 「DAC8411」
SPICEモデル 「OPA227」
データ・シート 「DAC8560」、「DAC8564」、「TS12A44513」、「TS12A12511」からダウンロード
著者紹介
ジョナサン T. キー(Jonathan T. Key)
TI 高精度D/Aコンバータ アプリケーション・エンジニア
テキサス工科大学卒業(コンピュータ・エンジニアリング専攻)
現在、電気工学修士課程に在籍
ラフール・プラカシュ(Rahul Prakash)
TI 高精度アナログ・データ・コンバータ ・グループ プロダクト・ディファイナ
数々の先端テクノロジー専門誌にアナログ回路設計技術に関する記事を執筆および、カンファレンスにおいて講演を担当。アナログ回路設計と技術に関して3つのアメリカ特許を保有。テキサス大学ダラス校にて理学修士号取得(電気工学、マイクロ・エレクトロニクス専攻)
クナル・ガンディー(Kunal Gandhi)
TI 高精度アナログ・データ・コンバータ・グループ プロダクト・マーケティング・エンジニア
7年間、ミクスド・シグナル設計エンジニアとして従事し、現職に至る。
南カルフォニア大学に理学修士(電気工学)およびテキサス大学オースティン校にて経営学修士(MBA)取得