Photo01:David Heacock氏(SVP&Manager,Silicon Valley Analog)。ただ同氏は元々はUnitrode(1999年にTIが買収)の出身で、SVAの母体となったNational Semiconductorとは直接の関わりはないそうである

Texas Instruments(TI)は8月3日、記者説明会を開催し、同社のSVA(Silicon Valley Analog)事業部トップによる、特にアナログ製品のビジネス概況といくつかの新製品に関する説明が行われた(Photo01)。昨年もほぼ同時期に同様の説明会が開催されたが、昨年と異なるのはSVA事業部からの説明であることだろうか。

まずビジネス概観。2014年度は130億ドルの売り上げで、うちアナログが81億ドル、組み込みプロセッサが27億ドルという内訳だったが、2015年度は総額こそ変わらない130億ドルながら、アナログが83億ドル、組み込みプロセッサが28億ドルで、全体の85%をアナログ+組み込みプロセッサが占めることになった(Photo02)。

Photo02:逆に言えばDLPとかASICなどがその分減った、という言い方もできる

さて、同社が提供するさまざまなソリューション(Photo03)というスライドそのものは昨年と同じであるが、今回はこの中で赤の破線で囲まれたスイッチと、特にDC/DC電源を中心に説明が行われた(Photo04)。

Photo03:別にSVAがこの破線部を担っている、と言うわけではなく(SVAは広くディスクリート部品を扱っている)、今回は主に電源の話だから、ということの模様

Photo04:電源変換とセンシングというテーマでは、ポイントとなるのはこうした内容だとする

まずはDC-DC電源。同社は2.2V~60V、1A未満~50Aという広い範囲に対応した電源モジュールをすでに広く提供しており、これで広範な要求に応えることができるとしている(Photo05)。こうしたモジュールの新製品として、昨年から今年に掛けて発表されている製品がGaNベースのモジュールやそのコントローラである(Photo06)。元々TIのポリシーとしては、IGBTやSiC、GaNなどは顧客が要望する限り何でもサポートする方針であり、IGBTやSiC対応のドライバなどは今後も提供するが、これらはモジュールとしての提供はないとの事。一方GaNはTI自身で開発してきたもので、ドライバを含めて今後もモジュールとして提供してゆくという話であった。

Photo05:ちなみにこれは1st Solutionであって、よりカスタマイズが必要な場合は、例えば顧客がWEBENCHを利用して最適化を図ることも出来るし、同社のカスタム設計部門が対応することも出来るとする

Photo06:LMG3410とTPS53632Gは今年4月に発表された

また、今年7月に発表されたばかりの「UCC21520」(Photo07)は、特に高電圧/高電力アプリケーションに向けたゲートドライバで、今後はこのシリーズを更に展開してゆく事になっているという話であった(Photo08)。

Photo07:高電圧ということもあって、GaNではなくMOSFETやIGBT、SiCに対応したドライバとなっている

Photo08:余談だが、質疑応答の際にGaNとSiC/IGBTの使い分けに関して、高電圧/高温の環境ではSiCにアドバンテージがあり、IGBTは価格面でのアドバンテージが大きいということで、UCC21520がターゲットとするマーケットはIGBTやSiCが主体になると考えている様だ

一方省電力なアプリケーション向けには、今年5月にSWIFTシリーズの降圧コンバータが発表された(Photo09)。入力電圧8~14Vで12V/10A出力が可能で、最大10MHzのスイッチング速度がサポートされており、例えばサーバのCPUなどへのMulti-Phaseの電源回路とか、あるいは小型機器の電源などに利用できるとしている。

Photo09:基板面積157平方mm、インダクタの体積は19.2立方mmと小型化しながらも、10A出力が可能とされる

さらに小型なのが今年5月に発表された「LM5165」で、出力は最大150mAとそう大きくないが、1~10mAの軽負荷では変換効率90%と非常に高いのが特徴とされる(Photo10)。

Photo10:LM5165-Q1はAEC-Q100の認定を取得済で、車載などにも利用できる

一方スイッチ関連では、まずは近接センサの「LDC0851」(Photo11)が紹介された。特に温度変化や環境変化を自動補償でき、しかも省電力である点が大きなアピールポイントであるとする。また6月には「PGA411-Q1」を発表したは、こちらは特にモータ向けの角度検知センサで、BOMコストを削減できる(同社によれば少なくとも10個の外付け部品を削減可能)上、ISO26262 ASIL-Dに対応できるBIST機能も内蔵するとする。

Photo11:パターンコイルなどと接続する事で、鉄などの導電性物質の有無を判断できる近接センサである

Photo12:外部部品なしでリソルバセンサのコイルの励磁と、回転軸の角度の検出を同時に行える点がポイントであり、内蔵するBIST回路が起動時にセルフテストを自動的に実行する点も特徴

面白いのが、こうした製品をSVA事業部が手がけていることだ。ご存知の通りSVA事業部は、元々はNational Semiconductor(NS)だった部隊であり、これがそのままSVAとして存続しているわけだ。そんなわけで同事業部の主な製品は引き続きNS時代のディスクリート部品ということになる。実際Heacock氏によれば、現時点でも売り上げの9割はそうしたものだという。では新製品が無いのか、というとそういう訳でもないというのが今回の発表でも判るわけだが、ではTIの元々のアナログ事業部とSVA事業部の兼ね合いはどうなっているのか? というと、コラボレーションの効果があるかどうからしい。例えばGaN製品に関しては、元々NSがGaNのドライバICを提供していた関係で、SVAがこれを手がけているという。あるいはドライバとかコントローラで、元々NSとTIの両方が手がけていたようなものに関しては、両方の部隊を一本化する形でSVA事業部で行っているのだという。実際今回紹介された製品の中でも、LM5165やLMG5200/LMG3410といった製品の型番は、いかにもNSの流れを受け継いでいるように見える。実際にはエンジニアに関しても結構テキサスなどからシリコンバレーに移動している(逆はあまり無いらしい)という話で、うまく両社の資産が融合を遂げつつあるという感じであった。