東京大学(東大)と国土地理院の研究グループが、超高精度の「光格子時計」で約15km離れた2地点間の標高差を5cm精度で測定することに成功した。

同成果は、東大大学院工学系研究科の香取秀俊 教授(理化学研究所(理研) 香取量子計測研究室 主任研究員、光量子工学研究領域 時空間エンジニアリング研究チーム チームリーダー)と国土地理院の研究グループによるもので、8月15日(英国時間)発行の英国科学誌「Nature Photonics」オンライン版に掲載された。

光格子時計は、光格子時計は、香取教授が考案した高精度な原子時計で、次世代の「秒」の定義の有力候補として研究が進められている。「秒」の定義に求められる時計の「再現性」を担保するためには、その時計の「振り子の振動数」をほかの研究機関に伝送し、複数の研究機関で「振り子の振動数」の同一性を検証することが重要となる。一方、アインシュタインの一般相対性理論によると、異なる高さに置かれた2台の時計を比較すると、低い方の時計は地球重力の影響を大きく受け、ゆっくりと時を刻むため、超高精度な時計の遠隔比較では、従来の時計の概念を超える「相対論的な効果を使った標高差測定(相対論的測地)」という応用につながる。

今回の研究では、先行して開発した「低温動作ストロンチウム光格子時計」を東大に1台、理研に2台設置して光ファイバーでつなぎ、遠隔地比較を実施。同じ高さに置かれた理研の2台の光格子時計の振り子は1×10-18で振動数が一致した。一方、東大の時計の振り子は理研よりも1652.9×10-18だけゆっくり振動し、これから2地点の標高差1516cmが算出された。この「相対論的測地」の結果は、国土地理院が行った水準測量と5cmの誤差範囲内で一致。研究グループによれば、遠隔地時計比較によるcmレベルの標高差計測は世界初だという。

実験装置の概要 (c)理化学研究所、東京大学、国土地理院

水準測量では、短区間の測定を繰り返して測量するため、長距離では誤差が累積するが、時計比較の精度は距離が長くなっても累積誤差は生じないことから、論文では各地に設置した光格子時計が、将来、新たな高さ基準「量子水準点」を形成し、それらをネットワーク化する「時計のインターネット」の手法を提案している。これにより、火山活動による地殻の上下変動の監視や、GNSS(全球測位衛星システム)と補完的に利用できる超高精度な標高差計測システムの確立などが期待される。