国立がん研究センター(国がん)などは8月9日、6つの遺伝子領域の個人差が、EGFR遺伝子変異陽性の肺腺がんの罹りやすさを決めていることを明らかにしたと発表した。

国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野 河野隆志分野長

同成果は、国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野 河野隆志分野長、理化学研究所、愛知県がんセンター、秋田大学、大阪大学、京都大学、群馬大学、滋賀医科大学、東京大学、神奈川県立がんセンターらの研究グループによるもので、8月9日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

肺がんの半数程度を占める肺線がんは、喫煙との関連が比較的弱く、約半数が非喫煙者の発症となる。多いタイプの肺がんにも関わらず、喫煙以外の危険因子が特定されていないことから、効果的な予防法がないことが問題となっている。

また、肺腺がんの発症には人種差があり、非喫煙者における発症頻度は、欧米人よりもアジア人で高いことが報告されている。さらに、肺腺がんのなかでも、日本人ではEGFR変異陽性肺腺がんが約50%と、欧米人の約10%に対し非常に高い割合となっており、アジア人に特有の危険要因が存在することが示唆されているが、このように人種によって差がでる理由は明らかになっていない。

今回、同研究グループは、国立がん研究センターバイオバンクやオーダーメイド医療実現化プロジェクト(バイオバンクジャパン)、神奈川県立がんセンター、群馬大学、秋田大学などで収集された日本人のEGFR変異陽性がん3173例、EGFR変異陰性がん3694例、およびがんに罹患していない対照1万5158例の血液・非がん組織DNAについて、全ゲノム領域にわたる70万個の遺伝子多型の比較解析を行った。

この結果、テロメアの長さを調節するTEAT、免疫反応に関わるHLA-DPB1およびBTNL2、がん抑制に関与すると考えられているTP63、クロマチン制御に関わるBPTF、転写因子であるFOXP4の6つの遺伝子領域の個人差が、EGFR変異陽性の肺腺がんへの罹りやすさを決めていることが明らかになった。

遺伝子の個人差によるEGFR変異陽性肺腺がんへの危険度の違い。ある遺伝子の多型を持たない場合に対して、多型をひとつ持つ場合のリスクを倍率(オッズ比±95%信頼区間)で示したもの。ヒトは父、母由来の2つの遺伝子を受け継ぐため、両方が危険型の場合、オッズ比の2乗の危険度となる

特に、HLAクラスII遺伝子産物のうちのひとつであるHLA-DPB1タンパク質の57番目のアミノ酸の置換を起こす多型が、EGFR変異陽性の肺腺がんの罹りやすさを決める原因多型のひとつと考えられるという。HLA遺伝子群の個人差は臓器移植における適合性など、免疫反応の個人差の原因となるもので、その個人差の分布は、人種によって大きく異なる。したがって、EGFR遺伝子に変異を起こした細胞に対する免疫反応の違いなど、いくつかの遺伝子の個人差による生体反応の個人差が、EGFR変異陽性肺腺がんへの罹りやすさを決めている可能性がある。

今後は、コホート研究の情報などを利用し、環境要因と遺伝子の個人差を組み合わせることで、EGFR変異陽性肺腺がんに罹りやすい人を予測し、検診による早期発見へつなげていきたい考えだ。