博報堂アイ・スタジオのクリエイティブラボラトリー「HACKist(ハックイスト)」は、5月16日と17日の2日間、東京都・渋谷のギャラリー「Galaxy銀河系」において、同ラボが制作した12作品を展示し、実際に触れることができるイベント「DIGITAL FRAGMENTS」を開催している。ここでは、展示作品を体験してきた模様をレポートしていく。

5月16日、17日に開催されるイベント「DIGITAL FRAGMENTS」に先だって開催されたレセプションパーティーでは、イベント当日に展示されるHACKistによる12作品を体験できた

クリエイティブ・ラボ「HACKist」とは

同イベントに展示されている作品を制作した「HACKist」とは、Webサイトの企画制作やコンサルティング、システム開発、モバイルアプリ制作などを手がける「博報堂アイ・スタジオ」のクリエイターやエンジニアの有志からなるクリエイティブラボラトリーだ。

2011年の発足以降、「デジタルとリアルを掛け合わせ、日常生活に新しい価値を創造すること」を目的にものづくりを行っており、クリエイティブにテクノロジーをかけ合せることによって、未来に希望が膨らむプロトタイプ的な作品を中心に発表している。同ラボの展示イベントは、昨年4月に続いて、これが2回目の開催となる。

HACKistを率いるクリエイティブディレクター 望月重太朗氏

HACKistの初期メンバーとしてチームを引率するクリエイティブディレクター 望月重太朗氏によれば、同ラボは通常業務時間外に参加メンバーが集まり、ものづくりに励んでいるという。同氏はHACKistの活動をはじめた経緯を「自分たちの本職であるWeb制作やアプリ開発などのスキルを生かしながら、日常の業務ではなかなか取り組めない新しいアプローチでモノづくりをすることで、それが逆に新たな仕事の創造につながれば面白いのではないか、という思いからスタートしました」と明かした。

現在のメンバー数は、コアなメンバーが8名ほどとのことだが、その一方で「作りたいモノを作りたいときに発表できる場所」とゆるやかな定義もしており、広義での総メンバー数は30人程度とのことだ。HACKistの活動内容について望月氏は、「あくまでも自分の仕事をちゃんとした上で空き時間にものづくりに励み、各々の能力を発揮する場所であり、学校生活で例えるなら、勉強も部活も頑張る"文武両道"が前提になっている」と述べている。ちなみに、今回のイベントの展示作品の制作に携わったメンバーは30名程度だという。

「ADFEST」2部門受賞作品や「SXSW」出展作品も

本日5月16日から17日まで開催される「DIGITAL FRAGMENTS」では、新作12作品が展示され、参加者はそれらの作品に実際に触れながら、作品を手がけたクリエイターから、説明や制作過程などを直接聞くことができる。

これらの作品うち3作品は、米国テキサス州において開催された世界的なデジタル・クリエイティブの大型イベント「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」に出展されたもの。そのうちの1作品は、「第18回 アジア太平洋広告祭(ADFEST 2015)において2部門を受賞しており、こうした展示作品は列をなすほどのにぎわいを見せていた。

「第18回 アジア太平洋広告祭」で2部門を受賞した、野菜向け店頭プロモーションツール「トーカブル・ベジタブル」

今回のイベントの中で最も注目すべき作品は、今年3月に開催されたアジア太平洋地区で最も権威のある広告賞のひとつである「第18回 アジア太平洋広告祭(ADFEST 2015)」において、アウトドア部門で「GOLD」、インタラクティブ部門で「BRONZE」の2部門の受賞を果たした店頭プロモーションツール「トーカブル・ベジタブル」だ。この作品は、博報堂の「スダラボ」との共同開発によって生まれたものだ。

野菜に触れると、背後に設置されたスピーカーから農家の人の声でその野菜のトレーサビリティを話し出す。スピーカーは指向性で、正面にいる人にしか聞こえない

「トーカブル・ベジタブル」について説明する望月重太朗氏。同作品の制作者のひとりだ

「トーカブル・ベジタブル」は、箱に置かれている野菜に触れると、その野菜が自身のトレーサビリティについて、実際に育てた生産者(農家)の人の声で自己紹介するというもの。これにより、生産者と消費者との信頼と安心を提供し、野菜の価値を向上させることが可能となる。今回置かれている野菜はジャガイモだが、トマトなどほかの野菜にも対応しているという。

「POSTIE」は、スマホからの手書き文字によるメッセージを「手紙」として届けられる

内蔵の印刷機能で紙にプリントアウトされるため、電子メールよりもハートフルなやり取りが可能

続いて注目したいのが、デジタル・クリエイティブの祭典「サウス・バイ・サウスウェスト」にも出展された、IoTデバイス「POSTIE(ポスティ)」とセルフィーカメラユニット「Smilfie Pod(スマイルフィポッド)」の2作品だ。IoTは「モノのインターネット(Internet of Things)」の略語で、さまざまな「モノ」をインターネットに接続するテクノロジーとして昨今注目を集めている。HACKistはこの概念の研究開発に対して積極的に取り組み、これまでにない価値の創造を目指しているという。

カメラの前でとびきりの笑顔を見せると、表情センサーがそれを検知してシャッターが自動的に切られる

「POSTIE」は、専用アプリをインストールした2台のスマートフォンのうち1台を受信用として同機にセットするだけで、もう1台のスマートフォン上で書いた手書きのメッセージや写真、スタンプを相手に「手紙」として届けることができるデバイス。同機に搭載される印刷機能でプリントアウトされるので、実際の手紙よりも早く届くうえ、手書き文字と紙への印刷によって電子メールよりも暖かみのあるコミュニケーションを実現できるとしている。

プリンタを接続すると、撮った写真をその場でプリントアウトしてギフトとして渡すこともできる

一方の「Smilfie Pod」は、表情検出センサーが"笑顔"を認識すると、自動的にシャッターが切られるセルフィーカメラユニット。撮影した写真はその場でSmilfie Podに組み込まれたフィルターを選択することで、好みの画像に仕上げることが可能となっている。撮影写真には個別のQRコードが発行されるため、撮影者は手持ちのスマートフォンにデータを入れて持ち帰ることができるという。さらに、オリジナルのフレームを合成できるので、ロゴやURLなどを入れたその場所限定の写真を提供することでイベントやお店の告知ツールとして活用できるとのことだ。

また、興味深い作品はほかにも数多く展示されている。例えば、コードから生成されたデジタルアートの気に入った部分を切り取って、スマートフォンなどで持ち帰ることができる「Clippable CODE」。画面上を指でドラッグして必要な範囲を選択すると現れるQRコードをスマートフォンで読み取ると、そのエリアが画像として保存されるものだ。将来的には商品広告で利用することも想定されており、単なる広告としてのみならず、消費者がどの範囲を必要としているかを把握できるマーケティングツールにもなり得る可能性も秘めている。

画面上を指でドラッグした範囲をスマートフォンに転送できる「Clippable CODE」

回転する立体物の凹凸をもとに音を奏でる「Dimensions Record」

さらに、あらゆる立体物を音楽にするプレイヤー「Dimensions Record」も見逃せない作品のひとつ。ターンテーブルの上に乗った立体物の凹凸を音の波として読み取って演奏するものだが、センサーからの距離に応じて音のピッチが変化する仕組みは、ロシアの電子楽器「テルミン」さながらだ。

そして、「楽しく遊べる作品」として注目を浴びていたのが、マイクに向かって発した「ヤバイ」という声を認識して、それがどういう状態の「ヤバい」なのかを解読する、その名もズバリ「ヤバい」という作品。気持ちを込めて声を出すほど、正確な結果が出るとか出ないとか。

マイクに向かって発したヤバい!という声を解析して、それがどんな状態のヤバいなのかを示す「ヤバイ」

女性やカップル向けのデジタルデバイスも展示されている

ほかにも、大切な人への想いを"光"で伝え合うペアジュエリー「without words」や、声色によって宝石の色が変わる不思議な生体ジュエリー「声色アレキサンドライト」といった女性やカップルをターゲットにしたものを含む、さまざまな作品が展示されている。ぜひとも5月16日と17日に開催されるイベント本番となる「DIGITAL FRAGMENTS」に足を運び、前述した作品はもちろんのこと、ここでは紹介しきれなかったアイデアあふれるデジタルデバイスを実際に見て触って体験してほしい。展示作品のテクノロジーを応用した未来像がきっと見えてくるはずだ。

なお、「DIGITAL FRAGMENTS」の開催時間は、5月16日が12:00~18:30、5月17日が12:00~20:00。イベント、展示ともに入場無料。5月16日の19:30~23:00には、DE DE MOUSE × HACKistのコラボレーションライブのほか、PARKGOLF(2.5D management)やTETSUYA SUZUKI(TOPGUN)、MIIIが出演するクラブイベントが予定されている。