過去40年近くもの間、「プログレス」と名付けられたソヴィエト・ロシアの無人補給船は、改良を重ねつつ、サリュートやミール、そして国際宇宙ステーション(ISS)に向けた、水や食料、燃料などの補給物資の輸送を担い続けてきた。そして、そノプログレスを打ち上げるソユーズUロケットもまた、同じ歴史を歩んできた。

2014年10月29日、その歴史にひとつの転換点が訪れた。この日、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられたソユーズ・ロケットとプログレス補給船は、これまでにない、大きく2つの違いがあった。ひとつは打ち上げに使われたロケットがソユーズ・シリーズの最新型であるソユーズ2.1aロケットであったこと、もうひとつはプログレス補給船に新型の航法装置が搭載されていたことだ。

バイコヌール宇宙基地から離昇したソユーズ2.1aロケット (C)Roskosmos

国際宇宙ステーションに接近するプログレスM-25M補給船 (C)NASA/Reid Wiseman

ソユーズ2.1aロケット

ソユーズ・ロケットの歴史は今からちょうど60年前の、1954年にまでさかのぼる。この年から開発が始まった大陸間弾道ミサイルR-7セミョールカは、3年後の1957年には試射に成功し、そして同じ年の10月には、世界初の人工衛星であるスプートニクを打ち上げることに成功した。

スプートニクの打ち上げ以来、R-7はもっぱら人工衛星や有人宇宙船の打ち上げに使われるようになり、細かな改良が加えられつつも、現在でも第一線で活躍している。その中で、ここ最近の有人のソユーズ宇宙船や、その貨物機版である無人のプログレス補給船の打ち上げに使われてきたのは、ソユーズUとソユーズFGと呼ばれる2種類の機体だ。

ソユーズUは1973年に登場し、主に無人の人工衛星の打ち上げに使われつつ、ソユーズやプログレスの打ち上げも担ってきた。

もう一方のソユーズFGはソユーズUの能力向上型で、2001年に登場した。能力向上型とはいっても、エンジンに若干の手が加えられただけで、性能が劇的に上がったわけでもなければ、外見に目立つ変化もない。最初の3機は試験の意味も込めてプログレスの打ち上げで使われたが、4号機からはソユーズ宇宙船の打ち上げに使用されるようになった。またフレガート上段を装備して、通信衛星や惑星探査機の打ち上げにも使われている。

ソユーズ2は、これらソユーズUとFGを代替するために開発された。その背景には、ソユーズUは1970年代の設計を基にしておりシステムとしてすでに古くなっていたこと、またソ連崩壊によってウクライナから部品を購入しなければ製造ができなくなったことがある。

そこでロシアでは、エンジンや制御システムを改良し、またロシア国内のみで製造できるようにした、新しいソユーズ・ロケットの開発を始めた。検討自体は早くも1991年から始められており、当時は「ルーシ」という計画名で呼ばれていた。

しかし、ロシア連邦誕生後の宇宙予算は不足し続け、ソユーズ2の開発は遅れに遅れた。ソユーズUに小規模な改良を施しただけのソユーズFGが造られたのも、直接的ではないにしろ、ソユーズ2開発の遅れに対する苦肉の策だった。

ソユーズ2は、大きくソユーズ2.1aと2.1bの2種類に分かれている。もうひとつ、ソユーズ2.1vという機種もあるが、2.1a、2.1bとは大きく異なるため、今回は説明を省く。

ソユーズ2.1aは、ソユーズU、FGを純粋にアップデートしたような機体で、打ち上げ能力の向上度合いもそれほど大きくはない。一方のソユーズ2.1bは、第3段に新たに開発されたRD-0124と呼ばれるロケットエンジンを装備しており、ソユーズ2.1aに比べて、おおよそ1tほど打ち上げ能力が向上している。

ソユーズ2ではまず、エンジンにさらなる改良が施され、打ち上げ能力が向上した。そして何よりも一番大きな改良点は制御システムで、3基の独立した高性能プロセッサーと、2基のジャイロスコープからなる近代的な制御装置が搭載されたことで、飛行経路を柔軟に設定できるようになり、より効率的に、つまりロケットの能力を最大限発揮させることができるようになった。またシステム全体が軽くなったことも、打ち上げ能力の向上に役立っている。

また技術以外の点でいえば、完全にロシア国内だけで生産できるようになったということも大きい。

ただし良いことばかりではなく、例えば機体の価格は、2014年の時点でソユーズUの約6億8,500万ルーブルに対して、ソユーズ2.1aでは9億4,000万ルーブルもすることが分かっている。

ソユーズ2.1aはまず、2004年に試験打ち上げが行われた。これは軌道に乗らない飛行で、太平洋上に落下させられた。そして2006年からは軌道への打ち上げが開始され、同じ年にはソユーズ2.1bもデビューし、現在まで活躍を続けている。また、ソユーズ2はフランスのアリアンスペース社にも輸出され、同社のロケットとして南米仏領ギアナからも打ち上げが行われている。

今日までの打ち上げ機数は38機で、2011年にソユーズ2.1bが第3段エンジンRD-0124の問題で打ち上げに失敗した以外は、安定した飛行を続けている。打ち上げられる衛星は、もっぱら通常の人工衛星ばかりであったが、打ち上げが安定してきたと判断されたためか、今回からプログレスの打ち上げにも使用されることになった。またゆくゆくは、有人のソユーズ宇宙船の打ち上げにも使われる予定だ。

組立・整備棟から発射台へ向け移動を開始したソユーズ2.1a (C)Roskosmos

発射台に立てられようとするソユーズ2.1a (C)Roskosmos

プログレスM-25MとASN-K

今回ソユーズ2.1aで打ち上げられたプログレスM-25Mは、プログレス補給船の最新シリーズであるプログレスM-Mの25号機だ。

ただ、前号機までと異なるのは、ASN-Kと呼ばれる新しい航法システムを用いて飛行した点だ。ASN-Kは米国の全地球測位システムGPSと、ロシア版GPSとも呼ばれる同等のシステムGLONASSからの信号を使い、自機の軌道などを従来より正確に把握することができる。これにより、軌道変更をより効率的に行うことが可能となる。

ASN-K自体は前号機のプログレスM-24Mにも搭載されたが、このときは試験が行われたのみで、実際の飛行には使用されなかった。今回、ASN-Kを使って飛行し、かつ問題なくISSまでたどり着けたことは、大きな成果といえよう。

また、今回は打ち上げからISSへの到着までに6時間がかかったが、ASN-Kを使えば、4.5時間にまで短縮することが可能になるとされ、早速次回のプログレスM-26Mで実践される予定だ。

打ち上げ準備中のプログレスM-24M補給船。軌道モジュールの側面に見える赤い突起の部分に、ASN-Kのアンテナが装備される (C)RKK Energiya

打ち上げ準備中のプログレスM-25M補給船。軌道モジュールの側面に見える白い円形のものがASN-Kのアンテナ (C)RKK Energiya

ロシアは有人宇宙飛行における自律性を獲得できるか

ところで、ロシアは昨年にもプログレスを使い、クールスNAと呼ばれる新しいランデヴー・ドッキング・システムの試験を行っている。クールスNAもまた、ウクライナ製部品を使用する従来のシステムからの脱却を目指して開発されたものだ。

ASN-KもクールスNAも、現在開発中の次世代機プログレスMSとソユーズMSから本格的に搭載される予定になっており、現行のプログレスを使い、実際の運用を通じて、その露払いを行っている段階にある。現時点でプログレスMSの打ち上げは2015年に、またソユーズMSの打ち上げは、プログレスMSの飛行結果にもよるだろうが、2017年に予定されている。

プログレスMSとソユーズMSは、こうした新しい装置が搭載される他にも、太陽電池やスラスターも新しくなり、また船体の構造も大きく見直されることになっている。外見に大した変化はないだろうが、その実はまったく新しい宇宙船といっても差し支えないほどだ。

一方でロシアは、従来から使われているロケットの製造や運用でさえ失敗が続いており、また新しく開発された人工衛星も、たびたび問題を起こしている。前述したクールスNAでも、何度か試験に失敗している。その中で、ある程度信頼性が確立されたロケットと宇宙船の運用を止め、登場して間もないロケットと新しく開発した宇宙船へ切り替えることは、半ば賭けに近い。

だが、ロシアにとってみれば、自律性の確保という点からウクライナ部品への依存からの脱却は必要であり、またソ連崩壊後からの悲願でもあった。ソユーズ2.1aとプログレスMS、ソユーズMSがそろい、そして現在ロシア極東に建設中のヴァストーチュヌィ宇宙基地が完成すれば、ロシアはソ連崩壊後初めて、有人宇宙飛行において自律した能力を持つことになる。

参考

・http://www.federalspace.ru/21049/
・http://www.federalspace.ru/21058/
・http://samspace.ru/products/launchvehicles/rnsoyuz_2/
・http://www.energia.ru/ru/news/news-2013/public_06-19.html
・http://www.zakupki.gov.ru/pgz/public/action/orders/info/common_info/show?notificationId=3194165