宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月27日、同日開催された宇宙開発委員会・調査部会において、金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入失敗について、検討結果を報告した。調査部会の開催は17日に次いで2回目。詳細な分析を進め、原因が「燃料タンク逆止弁の閉塞」にあったと突き止めた。

JAXAは同日、プレス向けに記者会見を開催。調査結果について説明した

日本初の金星探査機「あかつき」は、12月7日に軌道制御エンジン(OME)による逆噴射を行い、速度を下げて金星周回軌道に投入する計画であったが、予定の2割ほどの時間で姿勢が乱れ、噴射を中断。そのため十分な減速ができず、金星を通り過ぎてしまったことが分かっている。

第1回目の調査部会では、FTA(故障の木解析)と呼ばれる手法によって、姿勢が崩れた原因について、「スロート後方後燃え」など5つの候補を報告。今回、その5つについてさらに詳細なFTAを実施したところ、不具合の原因が「燃料タンク逆止弁(CV-F)の閉塞」であったと特定できた。これが原因だとすると、各種計測データとの整合性が取れるという。

OME噴射中の姿勢の履歴(前回の資料より)。152秒後から姿勢が急激に変化した

逆止弁(CV-F)が閉塞してからOMEが燃焼を停止するまでの推定シナリオ

逆止弁は、推進剤(燃料と酸化剤)が加圧用の高圧ヘリウムの配管を逆流して混合することを防ぐ目的で挿入されている部品(米国製)。OMEのような2液式のスラスタでは混合するだけで自発的に発火する性質の推進剤を使っており、タンク内で混ざると非常に危険。実際に、米国の火星探査機「マーズ・オブザーバー」は、この事故により通信が途絶したと考えられている。

「あかつき」の配管系統図。燃料と酸化剤を共通の加圧系で押し出すので、逆流防止の逆止弁が必要となる(図中のCV-FとCV-O)

逆止弁の構造図(イメージ)。弁体をバネで押しているだけのシンプルなもので、一定以上の圧力がかかるとバネが縮んで開く仕組み

「あかつき」では、この逆止弁を燃料タンクと酸化剤タンクの上流側にそれぞれ設置している。問題が起きたのは燃料タンク側の逆止弁と見られ、これは日本の火星探査機「のぞみ」にも同じ部品が搭載されていたが、この時は問題なく動作していた。「あかつき」では、燃料タンクの圧力の推移から、CV-Fは通常の10分の1程度の面積しか開いていなかったと推定された。

現時点で特定できたのはCV-Fで閉塞が起きたらしいということだけで、(1)どうして詰まったのか、(2)その結果何が起きて姿勢が乱れたのか――についてはまだ特定できていない。JAXAは今後、地上での試験などを実施して、これらを突き止めていく考え。

検証スケジュール。来年の夏くらいまでかかる見通し

上記(1)については、新たなFTAで「弁体の過挿入」「アライメント不良」「設計・製造不良」など様々な可能性があげられている。この項目については、製造メーカーにおける設計・製造情報の解析、要素試験、実バルブを使った試験などで原因を追及する。

一方、上記(2)については、探査機のX軸周りに想定外のトルクが発生したことは確実であるが、それがスラスタ内部での燃焼異常によるものなのか、それともノズルが破損したせいなのかは分かっていない。いずれにしても、燃料と酸化剤の混合比(酸化剤/燃料)は通常とは大幅に異なっており、これが原因となって問題を引き起こしたものと考えられている。

OME噴射中の推進剤の流量の推移。燃料の流量(青)が減少するため、相対的に酸化剤(赤)の割合が増える

これはスラスタの設計条件を大幅に逸脱しており、何らかのトラブルを引き起こしたと推定されている

CV-Fが詰まって燃料の流量が減少すると、相対的に酸化剤の割合が高くなる。通常の混合比は0.8程度、つまり燃料が10のときに酸化剤は8くらいに抑えられているが、今回の噴射では姿勢が乱れた時点で、混合比は1.1以上まで上昇していた。混合比が大きくなると燃焼ガスは高温になる傾向がある。OMEのセラミックスラスタは従来の金属製よりも耐熱温度は高いが、JAXAは今後、同条件での燃焼試験などを行って破損の可能性についても調べる。

気になるのは、6年後の金星再接近のチャンスにOMEが使えるのかどうかであるが、今回の調査は「姿勢が崩れて噴射が中断したこと」の原因究明を主目的としており、再投入の可否については判断は行わない見通し。それを判断する上で重要な知見が出てくる可能性は当然あるが、「調査結果が出てから、改めて再投入が可能かどうか判断するための追加実験をやるかもしれない。それはいま議論しているところ」(JAXA宇宙科学研究所の稲谷芳文プログラムディレクタ)として、現時点での判断は避けた。