北フランスのデジタル産業が、急激な盛り上がりを見せているらしい。それはぜひ取材してみたい。というわけで、行ってまいりました。フランス北部の都市リールの周辺に広がるノール・パドカレ地方。そこは折しも、行政の大きな支援を受けたデジタル映像産業振興プロジェクトが進行中でした。寒い冬のフランスで伺った、デジタルクリエイター達の熱いつぶやきをレポートします!
北フランスに押し寄せるデジタル産業の波
パリから北フランスのリールへ、TGV(高速鉄道)で約1時間。フランドル様式の古くて重厚な建築物が建ち並ぶ11月末のリールは、曇天模様の下、みぞれまじりの雨に濡れていた。リールは、北フランスに広がるノール・パドカレ地方の首府でもある。同地方は19世紀以降に繊維産業の中心地として発展し、現在は自動車・精密機械工業が盛んな土地だ。ロンドン、パリ、ブリュッセルといった大都市から90分圏内という地の利もあって、トヨタ自動車やYKKなど日本企業の進出がフランスで最も多い地域でもある。そんなノール・パドカレ地方にいま、デジタル映像の熱い波が押し寄せていると聞きつけて、5泊6日の取材旅行にはるばるやって来たというわけだ。
国中から集まるクリエイター達
この地域は近年、デジタル映像の教育施設やインキュベーション施設の整備、機材やスタジオの提供が活性化し、デジタル映像企業が集まっているとのこと。デジタル映像を制作する企業はすでに120、グラフィックなどデジタル表現の教育機関が12、研究所(ラボ)が6つあり、3,000人近くの人がデジタル映像の仕事に従事しているそうだ。「デジタル映像産業」というのも漠然とした言葉だが、実際にこの地域で取材した会社の事業内容は3DCG、アプリケーション開発、デザイン、Flashゲーム、TVアニメ、TVゲーム、Eコマースなど多種多様。彼らの多くは「SUPINFOCOM」など同地域のデジタル教育機関を卒業し、同地域の制作会社に就職、または設立したクリエイター達だ。フランスや世界中のクライアントを相手に、質の高いデジタル映像を提供している。
SUPINFOCOM |
|
![]() |
![]() |
デッサンの授業を取材した際には、CGキャラクターにどう応用できるか、二次元と三次元のデザイン的な違いは何かなど、最終的なデジタル作品へ落とし込むためのアプローチを学習していた(左)。アニメーションの動画用紙をセットするトレース台が並ぶ(右)。CGアニメーションを志す学生は、必ず手描きのアニメーション制作を経験してからデジタルを学んでいく |
「ポール・イマージュ」で活動を活性化
取材をしていて特に驚かされたのが、そういった作品を少人数、しかもハイペースで生み出していること。設立1年、社員2人の会社でも、たいてい10や20の実績を見せてくれる。訪問したゲーム制作会社でその秘訣を尋ねると、「"政策"のおかげで、同業他社との情報交換やラボの利用が活発だからね」と答えてくれた。その政策とは、フランス政府や地方議会が推進する「ポール・イマージュ(映像の中心)」プロジェクトのことだ。このプロジェクトで政府は、もともとデジタル映像産業が活発なノール・パドカレ地方の国際競争力をさらに高めるために、デジタルクリエーションの集積拠点として認定し、サポートを続けているそうだ。産官学が連携して、同地域にデジタルクリエイターを育成し、企業の設立を助け、ひいては経済発展、雇用確保を目指している。
デジタル集積拠点のなかで同業他社と切磋琢磨しながら働くクリエイター達は、みな生き生きと語ってくれた。デジタルクリエイティブの高まりを肌で感じながら働く彼らの声に、ぜひ耳を傾けてみてほしい。
次回は、北仏を支える様々なデジタルカンパニーを紹介していく。
(執筆:Web Designing編集部 Web Designing 2010年2月号掲載)