「Google Gears」は、米Googleが提供しているWebアプリケーションをオフライン環境でも動作させることができるようにするプラットフォームである。Google Gearsにより、ネットワークに接続していない状態でもWebアプリケーションの機能が利用できるようになる。今年5月末に発表されて以来、この革新的な技術は瞬く間に世界の開発者の注目を惹き付け、現在ではさまざまなWebアプリケーションがGoogle Gearsに対応したオフライン機能を提供するに至っている。

本稿では、そのGoogle Gearsの概要や利用方法などを解説した書籍「Google Gearsスタートガイド」(技術評論社発行)を紹介する。著者は本誌でもお馴染みの白石俊平氏である。白石氏はGoogle Gearsの先進性にいち早く着目し、発表された翌日より、早速ハウツー記事を次々と寄稿している(「早速プログラミング! Google Gearsを使ったアプリを作ってみよう」や、「Google Gearsを組み込んだGoogle Readerを使ってみよう」など)。

「Google Gearsスタートガイド」の概要

まずは章(Chapter)を追って本書の内容を見てみよう。「Chapter1」ではGoogle Gearsの概要として、同技術が生まれた背景や利用することで可能になること、そして簡単なしくみやインストール方法などが紹介されている。そして「Chapter2」で具体的なプログラミングの方法が解説される。Gearsはローカルサーバ、データベース、ワーカプールという3つのアーキテクチャがその基本的な構成要素となっており、Chapter2ではそれらの使い方が個別に取り上げられている。またバージョン0.2より利用可能になったHttpRequestクラスやTimerクラスもカバーしている。

「Chapter3」では、Chapter2で学んだ内容をもとに、オフライン対応のWebアプリケーションを実際に作成する方法を解説している。このChapter2とChapter3が本書の核となる部分である。

続く「Chapter4」では、オープンソースのJavaScriptフレームワークである「Dojo Toolkit」を取り上げている。本文でも解説されているが、Dojo Toolkitではもともとオフライン対応機能「Dojo Offline」の実装が進められており、Google Gearsの発表を受けて、それをGearsを利用したものに書き直したという経緯がある。したがってDojo Offlineを利用することで、Google Gearsで提供されるオフライン機能をより手軽に、Dojoの豊富なウィジェットと組み合わせて使用できるようになるというわけだ。

最後の「Chapter5」ではGoogle Gearsを取り巻くそのほかの環境として、Googleの提供するAjaxアプリケーション開発フレームワークである「GWT(Google Web Toolkit) 」や、GearsのローカルDBとJavaScriptオブジェクト間のO/Rマッピング機能を提供する「GearsORM」などが紹介されている。また、米Adobe SystemsによるRIA(Rich Internet Application)プラットフォーム「Adobe AIR」とGoogle Gearsの関連などにも触れられている。

短いサンプルソースと妥協のない解説で理解しやすい内容

全体を通しての印象は、第一にシンプルなサンプルソースコードと画面ショットによって、実際のプログラミングの流れや動作状況がイメージしやすくなっているということだ。Webアプリケーション系の技術を解説する場合、サンプルプログラムの規模が大きくなりがちで、それが理解を妨げる傾向にある。本書ではサンプルプログラムは極力短く、それでいて詳細に解説されており、たとえJavaScriptの初心者でも容易に理解することができるだろう。

もうひとつ印象に残った点として、『なぜ』がきちんと説明されているということが挙げられる。なぜGoogle Gearsのようなオフライン技術が必要とされるようになったのか、ローカルサーバ、データベース、ワーカプールがGearsの構成要素として必要だったのは『なぜ』か、などだ。これによって、各技術の必要性や適用すべき場面などをイメージすることができる。Google Gearsのような革新的な技術に対しては、この『なぜ』を知ることが理解への第一歩である。

要望として……

重要な部分にはそれぞれAPIリファレンスが付いており、提供される機能がまとめられているのも嬉しい。ただし難点を挙げるとすると、これらの表は少々見にくく、慣れるまでは少し戸惑ってしまった。また、巻末の「Appendix」でEclipseやAptana IDEといった統合開発環境が紹介されているが、これらのツールを使ってGearsアプリケーションを開発する方法についても触れられていたら、なお良かった。

そのような細かな点を除けば、本書はGoogle Gearsをその周辺技術に至るまで幅広く解説しており、非常に完成度の内容といえる。とくにこれからGearsを使ってみたいという開発者にとっては、この一冊が大きな道標になってくれるだろう。

『Google Gearsスタートガイド』

白石俊平著
技術評論社発行
2007年12月10日発売
A5判 / 264ページ
ISBN978-4-7741-3287-7
定価2,079円(本体1,980円)

本書を3名様にプレゼントいたします。こちらのページからご応募ください。