TwitterやFacebookを利用する政治家は珍しくなくなったが、これまでは族議員であったり、政治家としての影響力がネットでもリアルと同じように発言力の違いになっていた。ところが、モバイル世代と呼べるような若い議員が登場して、そうした状況が一変しそうになっている。昨年の米中間選挙で史上最年少の下院議員になったアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)氏だ。ミレニアルズ世代だけに、ソーシャルメディアの使いこなしが政治家離れしており、新人議員とは思えない発言力を発揮している。当初は若いオカシオ=コルテス氏を潰しにかかるような先輩議員の発言が目立ったが、Twitterで返り討ちにあって、今やベテラン議員もオカシオ=コルテス氏のツィートを警戒している。

オカシオ=コルテス氏は29歳、ミレニアルズ世代の女性。大学は卒業しているが、移民系で裕福な家庭ではなく、立候補するまではウェイター/バーテンダーとして働いていた。ニューヨークのクイーンズ地区とブロンクス地区にまたがって移民系が多い第14選挙区における民主党予備選において、ワーキングクラスの支持を集めて当選10回のベテランを破る大番狂わせを演じた。そして中間選挙でも勝利した。

20代・女性・移民・元ウェイターのオカシオ=コルテス氏に、多様性が重んじられる昨今の傾向は追い風になる……はずだが、実際には逆風も強い。加えて、同氏はばりばりのリベラルで、16年の米大統領選挙ではバーニー・サンダース上院議員の陣営のフィールド・オーガナイザーを務めていた。

ドナルド・トランプ大統領の支持が保守に偏り過ぎて、そのデメリットが表出する中、民主党の主流は政権を奪回するために、リベラルに偏り過ぎずに中道派が前面に出るべきと考えている。民主社会主義とも呼ばれる急進左派は、同じ民主党内にあって半ば異端扱いされ、中道派から警戒されている。

だから、下院議員になってから「アクティビティストと議会議員になるのは同じではない」とか、「Twitterスターであり続けるのか、それとも国会議員として力を発揮したいのか。決断する必要がある」というような批判に晒された。そして民主党右派の重鎮だったジョー・リーバーマン氏が「彼女が党の未来であって欲しくないし、そうならないと信じている」とコメントした。

政権奪還を考えたら正論とも言えるが、それで急進左派を真っ向から否定しては民主党の土台が揺らぐ。

そうした中、オカシオ=コルテス氏は「New party, who dis?」とツィートした。非ネット世代には「はっ?何それ」という感じである。これは「new phone, who dis?」というネットスラングをもじったものだ。「New phone, Who is this?」、都合が悪くてテキストやメッセージに返信しなかったのを責められた時に、「携帯を買い替えて、誰からか分からなくて…」とばればれの言い訳をしてしまう。それをジョークにして、頼まれごとをやんわり断る時や返事に困る時などに「new phone, who dis?」(新しい携帯にしたんだけど、これ誰?)ととぼけて返す。つまり、「民主党の未来になるな!」と言われても、そんなことは聞き入れられないというわけだ。

  • 重鎮からの小言のような苦言を1行でかわす

他にも「怒れる民主党議員達がオカシオ=コルテスを抑えつけようとしている」というPoliticoの記事が話題になり、それを読んだLatino Victory FundのCristobal Alex氏が、ヒスパニック・アメリカンを抑えつけられると思ったら、逆に巻き込まれるだろうと指摘した。そのコメントをオカシオ=コルテス氏が紹介し、その際に「None of you understand. I'm not locked up in here with YOU. You're locked up in here with ME,」とつぶやいた。

  • 民主党の利益のためにオカシオ=コルテスはおとなしくするべきという議論に「ウォッチメン」のセリフで返す

DCコミックの「ウォッチメン」に出てくるロールシャッハが刑務所で他の囚人に絡まれた時のセリフの引用だ。「何か勘違いしているな。おまえと一緒に収監されているのではない、オレと一緒におまえも閉じ込められているのだ」、刑務所にいてもロールシャッハは変わらずロールシャッハであるのがポイントで、「ウォッチメン」を知らなかったら、これまた「エっ、どういうこと?」という反応だろう。

そんな感じで、オカシオ=コルテス氏はミレニアルズらしいジョークや絵文字を駆使して、自分の独特の立場に対する批判をかわしている。そんなネット力やサブカル知識を求めるオカシオ=コルテス氏のツィートがミレニアルズ世代の共感を呼び、オカシオ=コルテス氏の支持基盤をより強固にしている。オカシオ=コルテス氏を抑えにかかった先輩議員にしてみたら、わけの分からないつぶやきだけで支持の風向きを一気に持っていかれてしまうから、未知の政略に直面している気分だ。

CrowdTangleのデータによると、2018年12月11日からの1カ月のTwitterのインタラクション (リツィート、Likesなど)のトップ5は以下の通り。

  1. ドナルド・トランプ:3980万
  2. アレクサンドリア・オカシオ=コルテス:1180万
  3. カーマラ・ハリス:460万、上院議員、2020年大統領選の有力候補の1人
  4. バラク・オバマ:440万
  5. CNN:310万

トランプ氏が飛び抜けているが、同氏は大統領である。3位以下と比べると、2位のオカシオ=コルテス氏が突出しており、Twitterだけなら、CNN (310万)、ABC (220万)、New York Times (180万)といったメディアを上回る影響力を持っている。

Stratechery.comの創設者であるBen Thompson氏は、オカシオ=コルテス氏を「インターネットから誕生し、インターネットを使いこなす政治家」と表現。そしてオカシオ=コルテス氏が最初で最後ではなく、それが新たなアーキタイプになると指摘する。早くも大統領選出馬を期待する声も上がっているが、まずはリベラルにとって厳しい時に、ミレニアルズの手法でオカシオ=コルテス氏が、その理想を影響力のある動きに押し上げられるか注目である。