内閣府による「マイナンバー制度に関する世論調査」が、昨年10月に実施され、その内容が11月公表されました。前回もみたとおり、マイナンバー制度がなかなか進捗しない実態が、この調査結果でも示されています。

今回は、この調査結果を通して、マイナンバー制度の何が問題なのか、再度焦点を当ててみたいと思います。

「マイナンバー制度に関する世論調査」とは

「マイナンバー制度に関する世論調査」は、内閣府が制度施行前から実施している世論調査の一つです。

前回「マイナンバー制度に関する世論調査」が実施されたのは、2015年7月ですので、実際にマイナンバー制度が施行されてからの世論調査としては、今回の世論調査が、初めてということになります。

前回の世論調査は、制度施行前ということもあり、以下のように、制度やマイナンバーカードへの認知度を確認する内容になっていました。

2015年7月「マイナンバー制度に関する世論調査」の調査項目
・マイナンバー制度の認知度
・マイナンバー制度に対する懸念
・個人番号カードの認知度
・法人番号の認知度
・マイナンバー制度に対する期待

これに対して、今回の世論調査の調査項目は、以下のようになっています。

2018年10月「マイナンバー制度に関する世論調査」の調査項目
・マイナンバーの提示について
・マイナンバーカードの取得状況について
・マイナポータルについて
・マイナンバー制度への期待

制度施行から3年が経過した時点での世論調査ですので、調査項目はより具体的に、マイナンバーの提供やマイナンバーカードの取得について確認する内容になっています。

今回の世論調査では、全国の18歳以上の日本国籍を有する個人3,000人を対象に行われ、有効回収数(率)は1,671人(55.7%)となっています。この有効回収数(率)を、男女別でみてみると、男性が1,408人中728人(51.7%)、女性が1,592人中943人(59.2%)と、女性の方が有効回収数(率)で上回っています。年齢別では、全体の回収率55,7%を上回っているのは、男性では60歳以上の年代、女性では40歳以上の年代となっています。男性のメインな勤労世代である20代から50代の年代が、全体の回収率55,7%を下回っています。女性でも勤労者が多いと思われる、20代、30代の年代が、全体の回収率55,7%を下回っています。これがこの年代のマイナンバー制度への関心の薄さを示しているとすると、マイナンバーカードの普及など今後の課題を進めていくことの難しさを感じさせます。

「マイナンバーの提示について」の調査結果

「マイナンバーの提示について」では、マイナンバーをどのような手続で届け出たり、記載したことがあるかについて質問されています。それに対する回答をグラフにしたのが、(図1)です。

実際に、マイナンバーを提示したり、提供した事例では、「職場やアルバイト先で給料や社会保険の手続をしたとき」を挙げた人が29.1%と最も高く、以下、「年末調整や確定申告をしたとき」(25.3%)などの順となっています。個人が、マイナンバーを提供したり、記載しなければならない社会保険や年末調整、確定申告が、当然のように上位に来ています。

その一方で、「マイナンバーを届け出たり、記載する機会がなかった」と答えた人が34.9%と、全体で最も高い割合になっています。

これらの項目について、どのような「従業上の地位」にある人が回答しているのかをみていくと、以下のようになっています。

これをみると、社会保険や年末調整の手続きで、マイナンバーを勤務先に提供しているはずの「雇用者」でも、それなりの割合の「雇用者」がマイナンバーを提供していないことがわかります。逆に言えば、従業員からマイナンバーを収集できず、マイナンバーを記載しないまま社会保険や年末調整の手続きをしている企業があるということです。

また、確定申告しているはずの自営業主でも、かなりの数の事業主がマイナンバーを記載せずに確定申告していることがわかります。

すでに、マイナンバー制度が施行されて3年になりますが、行政手続きにおけるマイナンバーの利用というシーンでは、マイナンバーの記載が必要な書類でも、マイナンバーが記載されないまま提出されている実態があるということです。おそらく行政側は、マイナンバーが記載されていなくても、情報連携によってそれを補うことができる仕組みになっており、マイナンバーの未記載について、それほど厳しい指導を行なっていないのだと思われます。

こうした実態が続いても、行政としてはある程度の目的を果たしているのであれば、経済界からの要望にもあるように、マイナンバーを特定個人情報ではなく、通常の個人情報として扱うように、制度のあり方を見直しても良いのではないでしょうか。

具体的には、マイナンバーを記載しなければならない手続きの見直しと、従業員などのマイナンバーを管理せざるをえない企業の管理ルールの見直し、が課題としてあげられます。

「マイナンバーカードの取得状況について」の調査結果

マイナンバーカードの取得状況についての回答は、(図2)のグラフのようになっています。

マイナンバーカードの交付枚数が、[全人口の10%程度(総務省)]http://www.soumu.go.jp/main_content/000538605.pdfであることを考えると、この世論調査で、マイナンバーカードを「取得している、もしくは取得申請中」が27,2%となっているのは、多いように感じますが、この調査の対象が18歳以上であることを考慮すれば、当然ともいえます。また、「取得していないが今後取得する予定」が16.8%あり、これらを合わせると44.0%になります。これだけを見れば、マイナンバーカードの普及に、ある程度弾みがつきそうな数字になっています。

ただし、「取得していないし、今後も取得する予定がない」としている人が53.0%もあることは、まだまだマイナンバーカードのメリットが浸透していない状況を反映しているともいえます。

(図3)は、マイナンバーカードを「取得している、もしくは取得申請中」および「取得していないが今後取得する予定」としている人が、マイナンバーカードを取得した(する)理由に挙げた項目です。

また、(図4)は、マイナンバーカードを「取得していないし、今後も取得する予定がない」と答えた人が、マイナンバーカードを取得しない理由に挙げた項目です。

マイナンバーカードを取得した(する)理由では、実際にマイナンバーカードを利用するシーンを挙げた回答が多くみられます。「身分証明書として使えるから(46.7%)」「住民票などがコンビニで取得できるから(19.6%)」「職場などで必要になったから(19.2%)」「確定申告などの行政手続をインターネットで行えるから(19.0%)」などを取得の理由に挙げた人は、実際にマイナンバーカードを使用している(する)はずです。また、これらの理由を挙げた人は、同時に「将来利用できる場面が増えると思ったから(25.9%)」といった期待も持っているのではないでしょうか。

一方で、マイナンバーカードを取得しない理由では、「取得する必要性が感じられないから」が、57.6%にもなっています。また、「身分証明書になるものは他にもあるから」も42.2%と高い割合になっています。これらを取得しない理由に挙げた人たちに対しては、マイナンバーカードが、身分証明書として使えることをアピールしても、取得しようとはしないと思われます。

一方、「個人情報の漏洩が心配だから(26.9%)」や「紛失や盗難が心配だから(24.9%)」を理由に挙げた人たちは、マイナンバーカードに特定個人情報であるマイナンバーが記載されており、マイナンバーカードを持つことで、マイナンバーの漏洩に不安を感じて、これらの理由を挙げていると思われます。

前回取り上げた経済同友会の提言では、「仮に公的個人認証の手段として、マイナンバーカードの普及に力点を置くのであれば、個人番号について記載事項から除くよう、マイナンバー法第2条第7項を修正することも考えられる。」といった提言もしています。

今後、行政手続きの電子化が進んでいけば、個人が行う手続きでは、マイナンバーカードによる公的個人認証を使用する場面が増えていくことになります。そう考えると、経済同友会の上記の提言を実現することは、取得しない理由に「個人情報の漏洩が心配だから」や「紛失や盗難が心配だから」を挙げた人たちに対する有効な対応策となるのではないでしょうか。併せて、前項で取り上げたように、マイナンバーを特定個人情報ではなく、通常の個人情報として扱うように見直しが行われれば、それなりの効果が出るのではないでしょうか。

「取得する必要性が感じられないから」とした人たちも、周りがマイナンバーカードを便利に使っていることをみることが増えてくれば、動く可能性があります。まずは、「個人情報の漏洩が心配だから」や「紛失や盗難が心配だから」を理由として挙げている人たちに対応すること、これが、マイナンバーカードを普及させるための鍵になると考えます。

「マイナポータルについて」の調査結果

マイナポータルについては、利用しているかどうかの問いはなく、「マイナポータルで利用してみたい機能」を質問する内容になっています。これに対する回答は(図5)の通りです。

利用してみたい機能を具体的に挙げた回答に比べて、「特に利用してみたいと思わない」という回答が、62.2%と圧倒的に多くなっています。これについては、「マイナポータルで利用してみたい機能」の多くが、未だ実現されておらず、そのため利用者数が少ないまま推移しており、周りに便利に使っている人がいない現実が、そのまま反映された数字といえます。

私もマイナポータルのアカウントを持ってはいますが、時間を使ってまで利用したいような機能がないため、ほとんど利用していないのが実態です。

個人が行う諸手続きをワンストップで行えるようになることが、本来マイナポータルの目的だったはずですが、そのためのポータルとしての役割を果たすには、まだまだ不十分としかいえません。この点では、ワンストップで便利な機能の開発スピードが遅いのも、一つの要因といえます。

一方で、ITを使った便利な個人向けの民間サービスは、どんどん普及しています。そして、そのほとんどは、スマートフォンでも使えるサービスです。マイナポータルも、マイナンバーカードにパソコン、カードリーダーで使用する方法のみではなく、マイナンバーカードとAndroidのスマートフォンでも利用できます。今後は、iPhoneでも利用できる予定になっていますので、スマートフォンでの利用を前提に、便利機能を組み立てて行くことも大事なポイントといえます。

ただし、前項でみたマイナンバーカードの普及がなければ、このマイナポータルの利用も伸びません。マイナンバーカードの普及のために、何が障害になっているのか、きちんと見定めて、制度の見直しをすることが大事になってきているのではないでしょうか。2020年度には、マイナンバーカードを健康保険証として使用できるように計画されていますが、その前に現状の課題を解決しておかなければ、この計画もスムーズに進められなくなる可能性があります。

今回の「マイナンバー制度に関する世論調査」の目的は、「マイナンバー制度に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とする。」ことです。

今回の調査で浮かび上がってきた課題について、政府は、制度の見直しから新たな施策へ、しっかりと取り組むことが求められているのではないでしょうか。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、同社最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。