経済圏ビジネス強化のため、携帯各社が積極的に推し進める金融サービスの拡大。だが一方で、その携帯電話会社の傘下となった金融事業者にはどのような目的があるのだろうか。NTTドコモ傘下となったドコモSMTBネット銀行とマネックス証券のケースから見ていこう。
「ドコモの銀行」の狙いはネット銀行の認知拡大にあり
市場飽和に料金値上げ、そしてスマートフォンの急騰など、非常に苦しい状況にある携帯電話市場。それだけに、携帯電話会社にとって重要性が高まっているのは通信以外の事業であり、中でもここ数年来、各社が力を入れているのが、銀行や証券、ローンなどの金融関連事業だ。
この事業に携帯各社が力を入れるのには、携帯電話サービスの利用者に対して自社グループの金融、そして決済サービスを利用してもらい、お金の流れを押さえることで自社系列サービスのさらなる利用へと囲い込む狙いが大きい。つまり金融事業は「経済圏ビジネス」の中核となる存在だからこそ、各社ともに強化を図っている訳だ。
それゆえ携帯電話会社の側が、金融サービスを強化することは理解できるのだが、その携帯電話会社と組むことを判断した金融会社側の狙いはどこにあるのだろうか。その一例として、NTTドコモの金融中間持株会社、NTTドコモフィナンシャル・グループの傘下企業となった企業の事例を確認してみよう。
まずは銀行業を運営するドコモSMTBネット銀行だが、同社はNTTドコモと住友信託銀行との合弁会社であり、NTTドコモに買収される前は金融大手のSBIホールディングス傘下の「住信SBIネット銀行」として知られていた。その同社は2025年にNTTドコモに買収されたのち、2026年8月3日に現在の名称へと変更。ブランドも「ドコモの銀行」に変更するなど、NTTドコモグループとしての位置付けを強めている。
そのドコモSMTBネット銀行によると、同社の口座数は900万を超えネット銀行としては有数の規模を誇るが、6億はあるとされる日本の銀行口座全体でいえば1%程度に過ぎないという。同社を合わせたネット銀行全体でも預金総額は50兆円程度と、1200兆円はあるとされる銀行預金残高全体からすれば4%程度と、やはり規模が非常に小さいという。
確かにネット銀行は、お得さや利便性の高さなどから、金融リテラシーの高い男性層を中心に利用を増やしてきた経緯がある。だがサービスがインターネットに閉じているだけあって、一般消費者との接点が少ないという課題も抱えており、認知が広まらないことが口座数を増やす上で課題となっていたようだ。
それだけにNTTドコモの傘下に入ったことで、大きな顧客基盤を活用し認知を高められるだけでなく、「ドコモショップ」というリアルの店舗を活用し、従来接することが難しかった顧客の獲得につなげられるという大きなメリットが生まれているようだ。実際NTTドコモでは、ドコモショップでドコモSMTBネット銀行の口座開設をサポートする取り組みを広げていく方針だという。
投資未経験者へのアピール機会を得たマネックス証券
同じくNTTドコモフィナンシャル・グループ傘下となっているネット証券のマネックス証券だが、こちらもマネックスグループとの合弁会社で、ドコモSMTBネット銀行に先んじて2024年1月よりNTTドコモ傘下となっている。
それだけに、NTTドコモのサービスとマネックス証券のサービス連携はより進められている。具体的には「dカード」によるクレジットカード積立や、マネックス証券口座とdアカウントとの連携、「dポイント」で投資ができるポイント投資、そしてスマートフォン決済の「d払い」アプリ上から簡単にマネックス証券の口座開設と取引ができる「かんたん資産運用」の提供などだ。
そして2026年1月29日には、ドコモSMTBネット銀行と同様に、ドコモショップでのマネックス証券口座の開設サポートを開始。やはりNTTドコモの顧客基盤と実店舗網を活用して口座数を拡大することが、NTTドコモグループとなったマネックス証券側の狙いと見て取ることができそうだ。
ただマネックス証券は証券会社という特性上、ドコモSMTBネット銀行とは異なる課題を抱えている。日本では多くの人が銀行口座を保有しているため、銀行サービスには確実な需要があるが、投資に馴染んでいる人は少なく、証券会社の口座を作ること自体に興味がない人が非常に多い。
加えて証券会社の側も、従来の体制では投資に詳しい人以外との接点を持つことに大きな課題があった。それだけにマネックス証券としては、投資の経験がないNTTドコモの顧客と接点を持ち、投資に関心を持ってもらう機会を構築できるようになったことが、大きな意味を持つといえそうだ。
実際マネックス証券が2026年10月14日に、メディア向けに公表した資料によると、同社の口座数はNTTドコモ傘下となった2024年1月以降48万口座増えており、これは傘下になる前の累計口座数の16%に上る水準だという。
また2024年1月以降、NISA口座を開設した人のうち64%はdアカウントとの連携をしているほか、dポイントによる投資を2024年9月27日に開始して以降、口座を新規開設した人のうち16%が、dポイントでの投資を経験しているとのこと。さらにそのうち3割はdポイントだけで投資をしているそうで、NTTドコモとの連携が単に口座数を増やすだけでなく、投資に対するハードルを引き下げ具体的な投資行動にもつながっている様子を示している。
金融事業の強化は携帯電話会社にとって重要であると同時に、それらと組む金融事業者の側にとっても、従来接することができなかった顧客にサービスをアピールできる機会ができるという大きなメリットをもたらしていることが分かる。ただ一方で、ここ最近は抜群の知名度を持つメガバンクを中心に、デジタル技術を活用した個人向け金融サービスを強化する動きも急拡大しており、金融サービスの競争軸が携帯電話会社同士とは限らなくなってきている。
それだけに携帯各社とのその傘下の金融事業者には、いかにWin-Winの関係を維持して双方のメリットを生かしながら、弱点を補って利用者を増やし、グループ全体での金融事業拡大につなげていくかが求められるだろう。



