KDDIは2026年9月2日に、山口県と地域課題の解決および持続可能な地域社会の実現を目的とした包括連携協定の締結を発表した。2024年に石川県と協定を締結して以降、相次いで同社のデジタル技術を活用し、自治体の社会課題解決を解決するための包括提携を結んでいるKDDIだが、その成果と今後に向けた課題について、KDDIの代表取締役社長である松田浩路氏に話を聞いた。

防災・観光振興だけでなく先端産業の育成も

2024年10月に能登半島地震で被災した石川県と、強みを持つデジタル技術を活用した創造的復興実現に向け、包括連携協定を締結したKDDI。その後同社は自治体との包括連携協定を拡大している。

実際2025年9月には徳島県と、南海トラフ地震に備えた事前防災推進のため、包括連携協定を締結。さらに2026年2月には、滋賀県と地域防災や観光振興に向けた包括連携協定を締結。そして2026年9月2日、新たに包括連携協定を締結したのが山口県だ。

  • KDDIは2026年9月2日に山口県と包括連携協定を締結。石川県、徳島県、滋賀県に続く4県目の協定締結となる

    KDDIは2026年9月2日に山口県と包括連携協定を締結。石川県、徳島県、滋賀県に続く4県目の協定締結となる

実は山口県はKDDIとの縁が深い。代表取締役社長である松田浩路氏の出身地というだけでなく、実はKDDIの前身の1つである国際電信電話(KDD)の時代から衛星通信所を開設しており、1979年には世界初となる南極からの衛星伝送を担うなど、長年にわたって日本の国際通信を支える拠点として活用されてきた経緯がある。

そうしたことから今回の協定では、宇宙産業につながる衛星通信所のある山口県のポテンシャルを生かし、KDDIが持つ宇宙通信やAIなどの技術やリソースを取り入れることで、先端技術を活用した産業振興に取り組むとしている。地域のデジタル化を超え、最先端の産業を開拓する取り組みは従来の協定にないものだ。

  • 前身の1つであるKDDが開設した山口県の衛星通信所。現在もKDDIの衛星通信を担う大きな拠点の1つとして活用されている。写真は特別な許可を得て撮影したもの

    前身の1つであるKDDが開設した山口県の衛星通信所。現在もKDDIの衛星通信を担う大きな拠点の1つとして活用されている。写真は特別な許可を得て撮影したもの

一方で、そのベースとして活用する技術やリソースは、他の協定と共通している部分が多い。実際今回の協定でも、山口県内にドローンの発着信をするポートを設置し、平時・有事に活用する取り組みや、KDDIが持つ人流データを活用した観光振興など、デジタル技術を活用した地域課題解決が進められるという。

  • 過去、他の自治体との協定でも活用が進められてきたドローン。今回の山口県との協定でも、有事や平時での活用に向けた取り組みが進められるという

    過去、他の自治体との協定でも活用が進められてきたドローン。今回の山口県との協定でも、有事や平時での活用に向けた取り組みが進められるという

デジタル技術活用を広げる鍵はユースケース開拓

それゆえ今回の山口県との協定は、KDDIの技術や人材などの資産を活用しながらも、大規模災害への対応や、デジタル化による地域課題の解決などが中心だったこれまでの自治体とは異なる取り組みを進めようとしていることが分かる。

松田氏は、全国一律での大量生産・効率化は大事であるものの、サービスを届けるに当たっては、地域に合わせたカスタマイズをしていく必要があるとの考えを示していた。これまで協定を締結した4県とも、抱える課題には違いがあるだけに、デジタル技術を持つ企業に求める要素も異なってくるからだ。

  • 筆者らの取材に応える松田氏。活用する技術は共通化や効率化を図りながらも、各地域のニーズに合わせてカスタマイズが必要との考えのようだ

    筆者らの取材に応える松田氏。活用する技術は共通化や効率化を図りながらも、各地域のニーズに合わせてカスタマイズが必要との考えのようだ

そこでKDDIは各自治体との協定に際して、共通した技術やデータを用いながらも、それぞれの地域で実際に活用する上では、それらを地域ニーズに合った形に落とし込むことに力を入れているという。ただそこで重要になってくるのが、各地域で実際にデジタル化などを推し進める人材である。

松田氏は「効率化を考えれば東京から進めてもいいが、何かあった時に地名も土地勘も分からない人がいて、何ができるんだと思った」と説明。それぞれの地域に深く入り込む人材が重要との認識を示している。

そして松田氏はこれまでの経験から、地域課題に向き合う上では、会社への帰属意識や愛着に目覚めた中堅社員を送り込み、大きな裁量を持たせた方が活躍すると考えているとのこと。松田氏自身もKDDに入社した当初、ゆかりのない茨城県へ赴任した経験を持つだけに、食わず嫌いをせずに社員が地域に向き合った取り組みをして経験を積むことが、大きな成果を生むと見ているようだ。

ただKDDIは民間企業なので、売上を上げていかなければこれらのサービスを継続的に提供し続けることはできない。そのためにも重要なのは横展開、より具体的に言えばより多くの自治体と協定を結び、ドローンや衛星通信、人流データなどの活用を広げていくことだ。

  • ドローンや衛星通信だけでなく、KDDIのモバイル通信網から得た人流データも、自治体からは観光振興などでの活用が期待されている

    ドローンや衛星通信だけでなく、KDDIのモバイル通信網から得た人流データも、自治体からは観光振興などでの活用が期待されている

そこで課題となってくるのが、まだ協定を結んでいない自治体に、KDDIが提供する価値をアピールして興味を持ってもらうことである。これまでの協定を振り返るに、どちらかといえば各自治体の首長による熱心なラブコールが協定に結び付いたケースが多かったが、47都道府県の首長全てが強い関心を示すとは限らず、首長側の対応を待つだけでは拡大が進まない。

それだけに松田氏は「パッケージの実績が大事」と答えているが、地域によってニーズが異なる多くの自治体にメリットを伝えるとなると、より多くのユースケース開拓が求められるだろう。将来的には一連の取り組みでビジネスを成立させる必要があるだけに、とりわけマネタイズにつながる平時のユースケース開拓は非常に重要になってくるように思う。

この点について松田氏は、本業の通信事業を例に挙げ「モバイルのネットワークも(ユースケースを)そこまで考えて(基地局を)打たないが、ある程度打ってトラフィックを吸収し、顧客が喜ぶとマネタイズするというモデルができている」と回答。先に挙げたドローンのような新しい設備も、1つだけでビジネスにつなげるのは難しいが、松田氏は「県民の暮らしに役に立っている実績を作り、需要は後から付いてくる」という考えを示し、環境整備を先に進めながら先行投資でユースケース開拓を進めているとのことだ。

石川県との協定からおよそ2年が経過し、ドローンを実際の災害対応に活用するケースが出てくるなど、実績が着実に積みあがっていることは確かだ。それだけに山口県と締結した協定でも、より多くのユースケース開拓を進めて次の自治体との協定締結へとつなげられるかが、今後を占う上で重要になってくるだろう。