メモリ不足などの影響でスマートフォンの著しい価格高騰が止まらない中、メーカーには価格と性能以外の価値を提供し、いかに販売拡大につなげるかが問われている。ミドルクラスのスマートフォン「Xperia 10 VIII」の国内発売を発表したソニーは、どのような価値を提示して販売につなげようとしているのだろうか。

「Xperia 10 VIII」は性能ほぼ変わらず2万円超の値上げ

スマートフォンの著しい価格高騰が止まらない。円安の長期化に加え、2026年から本格化したAIデータセンター需要の高まりによるメモリ不足がその主因であることは既に多くの人が知る所だろうが、2026年の後半に投入される新機種を見ると、その影響は非常に深刻なものとなってきていることが分かる。

実際、米アップルの折り畳みスマートフォン「iPhone Duo」が35万円超という高額で話題となったが、他のスマートフォンも例外なく価格高騰している。とりわけ影響が大きいのは、従来購入しやすい価格帯のモデルとして人気を集めてきたミドルクラス以下のモデルだ。

2026年10月1日に、そのミドルクラスの新機種「Xperia 10 VIII」の国内発売を発表したソニーの事例を見ると、同機種はチップセットに米クアルコム製の「Snapdragon 6 Gen 3」、8GBのRAMと128GBのストレージを搭載しているが、この性能は前機種「Xperia 10 VII」と全く変わっていない。それにもかかわらず、SIMフリー版の価格はソニーストアで9万9000円と、Xperia 10 VIIの発売時の価格(7万4800円)と比べ2万円以上上がっている。

  • 国内発売が発表された「Xperia 10 VIII」だが、ベースの性能に変化がないながらも、メモリ不足などの影響が直撃して価格は2万円以上高騰している

    国内発売が発表された「Xperia 10 VIII」だが、ベースの性能に変化がないながらも、メモリ不足などの影響が直撃して価格は2万円以上高騰している

従来6万円前後程度とされてきたミドルクラスのスマートフォンが、10万円に近い価格にまで高騰してしまったことには驚きを隠せないが、もちろんソニー側が意図して値段を上げている訳ではない。前機種からスペックを据え置き、あらゆるコストダウンを図ってもなお、円安やメモリ不足の影響は緩和できず、10万円をかろうじて切る価格というのが限界、というのが実情のようだ。

ただコストが大幅に上昇してもなお、メーカーとしてはスマートフォン新機種を出し、売る必要がある。それだけに一層、2026年に入って問われるようになったのが、性能やコスト以外の部分でいかにユーザーへの価値を提案し、新機種を購入してもらうかである。

そこでソニーは、前機種であるXperia 10 VIIのユーザーアンケートから、ユーザーにどのような価値を提案するかを考えてきたという。そのアンケートによると、Xperia 10 VIIは日常使いでの満足度が高く、しかもバッテリーの劣化などネガティブな要因ではなく、新機種が魅力的でこの機種が欲しいから買い替えた、という人が多いとのこと。中でもかつての上位モデル「Xperia 5」シリーズから買い替えた人が増えており、ハイエンドモデルから乗り換えても満足できる性能を提供できている様子を示している。

  • 前機種「Xperia 10 VII」の購入理由はポジティブなものが多く、しかもかつての上位モデル「Xperia 5」シリーズからの買い替えが増えているとのこと

    前機種「Xperia 10 VII」の購入理由はポジティブなものが多く、しかもかつての上位モデル「Xperia 5」シリーズからの買い替えが増えているとのこと

そこでソニーはXperia 10 VIIIを提供するに当たり、毎日の使いやすさと「好き」が深まる体験を提供することにフォーカス。コード決済などを利用しやすくする「Point & Pay」やスピーカーの強化などをその強化ポイントとして挙げているが、国内発売に当たってもう1つ、新たに打ち出された価値となるのが「Fan Sync」である。

IPに強いソニーグループの力を価値創出に

ハードウェアのメーカーとして知られるソニーだが、ソニーグループ全体で見れば既に、主力事業をハードウェアから、ゲームやアニメなどのコンテンツビジネスに大きくシフトしている状況にある。そこでソニーはXperia 10 VIIIの発売に当たり、強みを持つIP(知的財産)を生かすサービスとしてFan Syncを提供するに至ったという。

  • Xperia 10 VIIIに用意された新サービス「Fan Sync」。専用のNFCカードをかざすことで、簡単に着せ替えができる仕組みだ

    Xperia 10 VIIIに用意された新サービス「Fan Sync」。専用のNFCカードをかざすことで、簡単に着せ替えができる仕組みだ

Fan Syncの具体的な仕組みは、キャラクターなどが描かれたカードをXperia 10 VIIIにかざすと、そのカードにあるNFCを読み取り壁紙やロック画面、充電開始時の音などがそのキャラクターのものへと瞬時に切り替わるというものになる。このカードにアニメやゲーム、あるいはアーティストやスポーツ選手など、さまざまなコンテンツやキャラクターを取り入れることにより、ある意味「推し活」をスマートフォンの販売につなげるというのが、ソニー側の狙いとなるようだ。

そしてFan Syncのサービス開始時に用意されるカードは、アニメ「鬼滅の刃」と「ハローキティ」の2つ。いずれも国内外で人気を誇るIPだが、現時点での対応カード入手方法は限られている。

  • Xperia 10 VIII発売開始時点で提供されるカードは「鬼滅の刃」など。ただいずれも入手方法は限定的だ

    Xperia 10 VIII発売開始時点で提供されるカードは「鬼滅の刃」など。ただいずれも入手方法は限定的だ

実際、鬼滅の刃のカードはXperia 10 VIIIの発売記念キャンペーンにより、先着2万名限定で提供されるという。ハローキティのカードはソニーストア限定で販売されるXperia 10 VIIIとハローキティのコラボレーションモデルにセットで付属するのみ。カード単体を現時点で購入する仕組みは、少なくとも発表時点では用意されていないことになる。

  • 「ハローキティ」のカードを入手するには、ソニーストア限定販売のコラボレーションモデルを購入する必要があり、価格は11万1000円となる

    「ハローキティ」のカードを入手するには、ソニーストア限定販売のコラボレーションモデルを購入する必要があり、価格は11万1000円となる

現時点での対応ハードはXperia 10 VIIIのみとなるだけに、ソニー側もFan Syncの展開は慎重に進めたい考えのようだ。実際ソニーも、Fan Syncで今後採用してほしいキャラクターなどをアンケートで募集するとしており、ユーザーの反応を見ながら次の展開を決めていきたい様子だ。

ただ、カードに採用するIPの数が増えなければFan Syncは有効に機能せず、Xperia 10 VIIIの販売にもつながらないが、一方でIPを増やせばそれだけ管理にコストがかかり、Xperiaシリーズだけの展開ではビジネスが成立しない可能性もある。ただ一方で、Xperia 10 VIIIを国内で販売する携帯電話会社の中には、NTTドコモのようにコンテンツビジネスに力を入れている企業もあり、そうした企業と連携すればFan Syncのメリットをより発揮しやすくなるだろう。

Fan Syncはソニーグループらしさを生かしスマートフォンに価値をもたらす有効な施策ではるとは感じるが、それだけにソニー側として、現時点で方向性を明確に打ち出していないことが非常に気になる。始まったばかりの取組みではあるが、次に打ち出す一手がその行方を左右することになりそうだ。