国立成育医療研究センター(NCCHD)と東京大学は9月8日、食物アレルギーの検査や治療効果に有用な、非侵襲的な新たな検査法として、尿中バイオマーカーの「プロスタグランジンD2」代謝物の測定を行う手法の臨床研究を実施し、検査手法として有効であることを確認したと発表した。

今回の研究では2つの研究成果が発表され、1つは、NCCHD アレルギーセンターの犬塚祐介医師、同・山本貴和子医長、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の中村達朗特任講師、国際医療福祉大学 医学部臨床検査医学の下澤達雄教授、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の村田幸久准教授、NCCHD アレルギーセンターの大矢幸弘センター長らの共同研究チームによるもの。詳細は、アレルギーが関与する医学分野を扱う学術誌「Clinical & Experimental Allergy」に掲載された。

もう1つの研究成果は、NCCHD アレルギーセンターの稲垣真一郎非常勤講師(日本医科大学小児科兼務)、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の中村達朗特任講師、浜松医科大学 医学部付属病院 小児科の夏目統助教、NCCHD アレルギーセンターの山本貴和子医長、同・福家辰樹医長、NCCHD アレルギーセンター 小児内科系専門診療部の成田雅美診療科長(杏林大学医学部 小児科学教室教授兼任)、国際医療福祉大学 医学部臨床検査医学の下澤達雄教授、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の村田幸久准教授、NCCHD アレルギーセンターの大矢幸弘センター長らの共同研究チームによるもの。詳細は、米・アレルギー・ぜん息・免疫学会による学術誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology In Practice」に掲載された。

食物アレルギーは、全世界で社会問題となるほど、患者数が急増しているという。現状においては、診断法は「食物経口負荷試験」、治療法は少量の食物そのものを医師の指導のもと食べる「経口免疫療法」などがある。

経口免疫療法がうまくいくと、「脱感作」を経て耐性が獲得され、食物アレルギーを克服した状態となる。治癒一歩手前ともいえる、この脱感作の状態を獲得できたかどうかを判定するのが、食物経口負荷試験であり、患者がそれまでの生活で摂取してきた何十倍もの食物を食べられるかどうかを確認することになる。しかし、その際には、アナフィラキシーを含むアレルギー症状が出現するリスクがあり、患者にとっての負担となり、心理的影響でアレルギー症状が出てしまうこともあるなど、軽微な症状の場合は判定が難しい場合があることが知られている。

そこで研究チームは今回、尿中バイオマーカーの「プロスタグランジンD2」代謝物(尿中PGDM)を測定することで、負荷試験を行わずに経口免疫療法中の患者の脱感作状態(アレルギー症状)を正しく予測できるかどうかの検証試験を実施することにしたという。

その結果、経口免疫療法において、尿中PGDM濃度が上昇しなかった試験参加者は、脱感作状態を獲得して免疫療法の治療効果が得られやすいことが判明したという。また、食物経口負荷試験にてアレルギー症状が誘発された場合、尿中PGDMが上昇することも確認されたという。

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    (左)経口免疫療法中の尿中PGDM濃度。尿は負荷試験直前に採取された。負荷試験が陽性だった試験参加者では、陰性だった試験参加者に比して免疫療法中のPGDMが有意に低かった。(右)食べて4時間後/食べる前の負荷試験中の尿中PGDM比。負荷試験で症状があった試験参加者は、なかった試験参加者よりも尿中PGDM比が高かった (出所:共同プレスリリースPDF)

食物経口負荷試験はアナフィラキシーのリスクを伴う検査であるため、尿中PGDMのような軽微なアレルギー症状を判別できる非侵襲の検査法が今後、普及していくことが期待されると研究チームではコメントしているほか、尿中PGDM濃度を継続的にモニタリングすることによって、非侵襲的に経口免疫療法の治療効果を評価できるようになることも期待されるとしており、今回の成果は、将来の患者に負担なくより安全に行うことができる食物経口負荷試験や経口免疫療法の確立につながるものとなるとの考えを示している。