岐阜大学は9月2日、日本原産植物であるフキノトウに多く含まれる苦みの主成分「ペタシン」が、がんの増殖と転移を強く抑制することを発見したと発表した。

同成果は、同大大学院連合創薬医療情報研究科 創薬科学専攻の平島一輝 特任助教、同 赤尾幸博 特任教授らの研究グループによるもの。詳細は医学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」(オンライン版)に掲載された。

がん細胞は正常細胞と比べて活発にグルコースやグルタミンなどの栄養素を取り込み、がんの増殖や転移に必要な核酸とタンパク、エネルギーを効率的に合成することが知られているほか、それを実行するにあたって、ミトコンドリアの電子伝達系とその最初の反応をつかさどる呼吸鎖複合体I(ETCC1)から供給されるATPと補酵素NADが必要であることも分かっており、ETCC1を阻害することを目的とした化合物の研究が進められているが、これまで報告されている化合物のほとんどは、活性が弱いか毒性が強く、がん治療に応用することができなかったという。

研究グループでは今回、独自の植物抽出物ライブラリを作成、その調査を進めたところ、日本原産植物のフキノトウに多く含まれるペタシンが、従来型の阻害剤とはまったく異なる化学構造を持っているが、それらと比べ1700倍以上高いETCC1阻害活性と、3800倍以上高い抗がん活性を持つことを発見したという。

  • ペタシンによるがんの抑制

    ペタシンによるがんの抑制イメージ (出所:岐阜大学Webサイト)

また、乳がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、膀胱がん、前立腺がん、悪性黒色腫、肉腫、白血病など幅広い種類のがん細胞に対して強い増殖抑制効果を示すことも判明したほか、ペタシンで処理されたがん細胞は増殖のみならず、浸潤・転移活性が低下することも判明したという。

その仕組みを調べたところ、ペタシンがETCC1を阻害し、がん細胞のATP・NAD合成のバランスを崩し、がん細胞が依存するPPPやHBP、TCA回路を重度に阻害することで、強い抗がん効果を示していることが判明したほか、がんの増殖と転移を促進するRAS、Akt、ERK、EGFR、ABL、c-Myc、STAT3、NRP1、ITGA5といった数多くのがん遺伝子群の発現が低下することも判明。実際に、複数のマウスモデルを用いたがんの増殖・転移抑制効果実験でも、確認されたとしているほか、明らかな副作用は確認されなかったという。

  • ペタシンのがん抑制

    マウスを用いた乳がんの肺転移に対するペタシンの効果実験の様子 (出所:岐阜大プレスリリースPDF)

なお、フキノトウを直接食べても効果を得られる可能性は低いが、ペタシンは人工的に大量合成できるため、ペタシンを基礎とした新しい抗がん・転移阻害薬の開発につながることが期待されると研究グループでは説明しているほか、安全性が比較的高いことから、ペタシンおよびペタシンを含む植物抽出物はがん予防への応用も考えられるとしている。