国立天文台(NAOJ)は7月30日、アルマ望遠鏡を用いて、磁場が大質量星の形成過程に必要不可欠あるという長年の研究者たちの考えを確かめるべく、大質量星形成領域「IRAS 18089-1732」を観測したところ渦巻き状の磁場構造を発見したが、予想に反して磁場の寄与が小さく、重力の方が大きいことが判明したと発表した。

同成果は、NAOJのパトリシオ・サヌエーサ特任助教が率いる国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

天体物理学において、近年、磁場が重要な役割を果たしているとする考え方がクローズアップされるようになってきたが、磁場が星の形成過程にどのような影響を与えているのかはよくわかっておらず、研究者たちの間でも議論が続いているという。

星の形成過程において、特に未解明な点が多いのが、大質量星の形成過程で、磁場が不可欠なのか否かを議論するための観測的証拠そのものが揃っていなかったという。そこでサヌエーザ特任助教らの研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて大質量星を観測することにしたという。観測対象としたのは、地球から7600光年の距離にある大質量星形成領域IRAS 18089-1732。観測に結果、渦巻き状の磁場構造を発見したが、これが予想に反して重力に圧倒されていることが判明したという。

別の星形成環境を観測した先行研究では、磁場が重要な役割を担っているという証拠を発見したとされていたが、今回の観測結果では、研究チームのメンバーも驚くほど磁場の寄与が小さかったという。

自然界に存在する4つの力のうち、重力だけが桁違いに弱いことが知れている。最も強力な強い力を1とすると、電磁気力が1/100、弱い力が1/10万、重力は1/10の40乗という弱さとされている。しかし、今回観測された大質量星形成領域のような極端な環境では、重力がガスの形態を決め、エネルギー収支を支配することができるのだという。また研究チームは、原始星が重力によってガスを引きつけることで、原始星周囲の磁力線がねじれていることも発見したとした。

今回のアルマ望遠鏡の発見は、大質量星形成過程の多様性を明らかにしたものといえるという。大質量星は、磁場が強い環境でも弱い環境でも、さまざまな力の相互作用を感じながら形成されうるものであるということが、今回の観測で明らかとなったとした。

  • アルマ望遠鏡

    アルマ望遠鏡での観測データをもとに作成された、大質量星形成領域IRAS 18089-1732の磁場の広がり。電波の強度が色で表されており、アルマ望遠鏡が偏光観測によって明らかにした磁力線の形状が線で描かれている (c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Sanhueza et al. (出所:アルマ望遠鏡Webサイト)