防災科学技術研究所(防災科研)は7月21日、地震発生メカニズムの解明を目的として、大型振動台を活用したメートル規模の岩石摩擦実験を行い、大地震発生前に観測される前震活動の特徴を明らかにしたと発表した。

同成果は、防災科研の山下太主任研究員、京都大学 大学院の福山英一教授(防災科研 主幹研究員兼任)、中国・南方科技大学の徐慶世助教、立命館大学の川方裕則教授、電力中央研究所の溝口一生主任研究員、防災科研の滝沢茂客員研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

日本列島は4つのプレートがひしめき合うエリアに位置しており、約3000万年前にその原型が誕生したときから、地震や火山などとは切っても切れない宿命を有する。長らく地震研究が続けられているが、それがいつ・どのように始まるのかを解き明かすことは今もってできていない。

政府機関が2020年時点で発生予測確率などを公表して警戒している大型地震には、首都直下地震と南海トラフ地震の2つがあり、その内の1つ、南海トラフ地震に関しては過去1400年のデータから地震の間隔が90~150年であることがわかっており、次の地震は前回の1944年の昭和東南海地震や1946年の昭和南海地震から88.2年とも予測されている。2020年時点でその2つの地震から約75年が経っており、南海トラフ地震の発生する可能性が高まっているとして警戒されている。

しかし、より詳細は地震発生時期を予測するための技術はまだ確立されていないのが実情である。これまで世界中の研究者により、地震の始まりについてのさまざまなモデルが提案されてきており、近年有力視されているのが、「プレスリップ型」と「カスケードアップ型」の2つのモデルだという。

プレスリップ型は、断層の一部で始まったゆっくりとしたすべり(プレスリップ)が加速しつつ断層全体に広がって本震に至るというもの。一方のカスケードアップ型は、小さな地震がより大きな地震を次々と誘発して本震に至るというものだが、これまで、前震活動(本震前の地震活動)などからプレスリップ型あるいはカスケードアップ型で発生したと主張されている地震がそれぞれ報告されており、どちらのモデルが現実の大地震の発生をより適切に表現しているかについては今でも明らかになっていないという。

特に、プレスリップ型は元々、岩石摩擦実験の結果に基づいて提案されたモデルであり、これまで数多くの地震研究で採用されているが、未だにこのモデルに従うプレスリップ自体が自然の地震前に明瞭に観測された例がないことが大きな課題だという。

そこで研究チームは今回、防災科研つくば本所の大型振動台(15m×14.5m、最大変位量0.4m、最高速度1m/s)を活用した岩石摩擦実験により、メートル規模の模擬断層面の状態を制御することで、2つのモデルに従う地震の始まりを再現することに成功。さらに、それぞれの条件における前震活動の詳細な比較を可能にしたという。

今回の研究では、まずメートル規模の岩石試料2本(上側1.5m長、下側2.0m長)が上下に積み重ねられた。下側の試料は振動台上に固定され、上側の試料は振動台外側に設置したバーによって動かないよう固定。その上で、振動台を一定速度で移動させることで、試料間の相対変位が実現された。

  • 地震予知

    大型振動台を活用した岩石摩擦試験機の写真および模式図。全長2mの岩石試料の上に全長1.5mの岩石試料が重ねられており、ジャッキによって接触面に垂直応力(接触面に垂直に働く単位平方メートルあたりの力)が加えられている。岩石の種類は海洋地殻構成物質の「変はんれい岩」だ。下側の試料はフレームによって大型振動台に固定されているので振動台とともに動くが、上側の試料は反力バーおよび反力架台によって振動台の外側に固定されている。これは、地震を引き起こす地中の断層すべりが模擬されている (出所:防災科研プレスリリースPDF)

その結果、試料間はスムーズにはすべらず、「固着すべり」と呼ばれる固着と高速のすべりを繰り返す現象が引き起こされたとした。この固着すべりは、自然の断層で地震が繰り返し発生するメカニズムと同等と考えられているという。今回の研究でも岩石試料の接触面を模擬断層面、高速のすべりを本震と見なして解析が実施された。

過去の岩石摩擦実験と同様、模擬断層面を比較的均質にした状態では、プレスリップ型の始まりが再現されることが確認されたとした。今回の研究では、このプレスリップ型の試験によって、模擬断層面上に不均質に生じた摩耗物をそのままの状態に配置して実験を開始することで自然の環境に近い不均質性を設定。その結果、カスケードアップ型の始まりを再現することに成功したという。これらの結果により、地震の始まり方には断層面の均質性が大きく関わっていることが具体的に示されたとした。

また、それぞれの条件の実験において前震が多数観測され、模擬断層面の状態によって地震の規模の相対的な発生割合を示す「b値」(マグニチュードと発生頻度の関係から決まる統計量)と呼ばれる統計量が有意に異なることが示されたとする。

さらに、カスケードアップ型の場合の前震活動が詳細に調査されたところ、その活動パターンから本震の発生時期を予測できる可能性が示されたとした。実際の自然断層は、今回の実験で設定された両極端な均質・不均質のどちらかではない。両者の特性が含まれており、均質性の度合いによってプレスリップ型もしくはカスケードアップ型どちらかの特性が強く出ているものと考えられるとしている。

  • 地震予知

    (a)本震直前の比較的均質な模擬断層面上のせん断応力(接触面に平行に働く単位平方メートルあたりの力)と前震の時空間分布。プレスリップが断層中央部から始まり加速度的に広がって本震に至っている。前震(○)はプレスリップ通過後に誘発されている。(b)本震直前の比較的不均質な模擬断層面上のせん断応力と前震の時空間分布。前震が加速度的に発生し本震に至っている。(c)2種類の断層で発生した前震の規模別頻度分布。傾きが示しているのがb値で、比較的不均質な断層の方が有意に小さいb値を示していることがわかる (出所:防災科研プレスリリースPDF)

研究チームでは、今回は、防災科研つくば本所の大型振動台を活用した岩石摩擦実験だったが、今後、兵庫耐震工学研究センターなどにおいて、さらに大きな規模での岩石摩擦実験を実施し、地震発生メカニズムの解明に向けた研究を進めていくとしている。また、今後も当該の実験研究を進めつつ、自然地震活動の解析結果との比較研究も推進することで、日常的な微小地震活動から断層の均質性を診断することが可能となり、いつ・どのように大地震が始まるかをより的確に推定できるようになる可能性があるという。さらに、それらの知見を導入することで地震発生の物理モデルが高度化され、それに基づく地震発生の予測精度が向上すると期待されるとしている。