北海道大樹町と北海道航空宇宙企画(HAP)は4月21日、宇宙港「北海道スペースポート」(HOSPO)の運営企業として、新会社「SPACE COTAN」を設立したことを明らかにした。社長には、航空業界出身の小田切義憲氏が就任。HOSPOの運営、ロケットやスペースプレーンの打ち上げ支援業務などを行い、「宇宙版シリコンバレー」を目指すという。

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    北海道スペースポート(HOSPO)のイメージCG。滑走路からスペースプレーンが離陸しているのが見える (C) SPACE COTAN

民間宇宙旅行時代の本格的な到来を目前にし、米国を中心に、世界ではスペースポートの建設が進んでいる。日本でも、大分県が米Virgin Orbitと提携し、大分空港から衛星打ち上げを実施する計画であるほか、和歌山県ではスペースワンがロケット射場の建設を進めており、民間による宇宙開発はさらに加速しそうだ。

3つの射点のほか3,000m滑走路の建設も視野に

大樹町ではすでに、インターステラテクノロジズ(IST)が観測ロケット「MOMO」の打ち上げを行っており、3号機では日本の民間としては初めて、高度100kmの宇宙空間への到達を実現している。HOSPOでは、この射点をLaunch Complex-0(LC-0)とし、今後、さらに2つの射点を整備していく計画だ。

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    現在稼働中のLaunch Complex-0(LC-0) (C) SPACE COTAN

Launch Complex-1(LC-1)は、現在のLC-0に隣接する形で建設する。こちらはISTが現在開発を進めている超小型衛星用ロケット「ZERO」が使用することになり、ZEROの進捗に合わせ、2023年度に完成する予定だ。

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    Launch Complex-1(LC-1)のイメージCG (C) SPACE COTAN

そして、より大型のロケットに対応できるLaunch Complex-2(LC-2)も計画。こちらは複数の組立棟を備え、複数企業がロケットの組み立て作業を同時に行えるようになるという。建設場所は未定だが、2025年度の完成を予定している。

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    Launch Complex-2(LC-2)のイメージCG (C) SPACE COTAN

また多目的航空公園には現在1,000mの滑走路があるが、これを1,300mに延伸、スペースプレーンの離着陸試験に活用する。将来的には、大型機の離着陸が可能になる3,000m滑走路を新設し、有人スペースプレーンに対応することも構想している。

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    3,000m滑走路の例。実際の配置についてはまだ調整中だ (C) SPACE COTAN

実際に整備を進めるのは、大樹町の役割となる。大樹町はこれに必要な資金として、計50億円を見込む。第1期(LC-1建設と滑走路延伸)が10億円、第2期(LC-2建設)が40億円という内訳で、この半分は地方創生交付金を申請し、残りの半分はふるさと納税等の寄付で集める計画だ。すでに企業版ふるさと納税により、約1億円が集まっているそうだ。

大樹町は、30年以上も前から、「宇宙のまちづくり」を推進してきた。2014年には北海道スペースポート研究会、2019年6月には準備会社としてHAPが設立。今回、運営会社としてSPACE COTANが誕生したことで、いよいよ、計画フェーズから実行フェーズに移った、と言うことができるだろう。

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    現在の多目的航空公園の全景。左奥に見えるのがLC-0だ (C) SPACE COTAN

アジア初の民間に開かれた宇宙港を目指す

小田切社長は、重量500kg以下の小型衛星の打ち上げ市場が、2019年の年間350機程度から、2030年ころには1,000機程度まで拡大するという予測を紹介。ただ、既存のロケットや射場をフルに活用しても、年間700機程度までしか対応できず、残りの300機程度は、新規のロケットや射場でカバーする必要があるという。

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    背景には、小型衛星打ち上げ市場が急成長するという予測がある (C) SPACE COTAN

小田切社長は、HOSPOがオープンであることを強調する。大樹町は、東側や南側に太平洋が広がっており、世界でも屈指の打ち上げに適した立地だ。すでに使用中のISTだけでなく、アジアや世界の民間ロケット会社にも広く打ち上げ場所を提供することで、旺盛な需要を取り込みたい考えだ。

大樹町は緯度が高いため、静止軌道への打ち上げにはやや不向きであるものの、小型衛星のほとんどは南北方向の極軌道であり、この場合は何の問題もない。また海上・航空ともに干渉する航路が少なく、打ち上げウィンドウ(時間帯)を長く確保しやすい。「十勝晴れ」という言葉があるように、晴天率の高さも大きな利点だ。

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    HOSPOは好立地をアピール。アジアからの需要にも期待する (C) SPACE COTAN

そして打ち上げ時には、ロケットや衛星の技術者は、射場近くでの長期滞在が求められる。世界的に射場は僻地にあることも多いが、HOSPOは帯広空港から自動車で約40分と近い。小田切社長は「大樹町もあるので生活は快適」とアピールし、「世界に誇れる天然の良港と考えている」と強調した。

さらに、ロケットや衛星だけでなく、部品や材料などの周辺産業、農林水産などの衛星データ利用ビジネス、観光なども含めた様々な効果を期待する。北海道経済連合会と日本政策投資銀行によると、HOSPOの整備による道内の経済波及効果は、年間267億円と算出されたそうだ。

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    中央が大樹町の酒森正人町長、その右がSPACE COTANの小田切義憲社長 (C) SPACE COTAN

ちなみにSPACE COTANという社名の由来であるが、「COTAN」はアイヌ語で「集落」を意味する。宇宙産業の集落(クラスター)を拡大していくことを表現しており、今後、HOSPOを核として、十勝や北海道全体に宇宙ビジネスの産業集積地を広げ、地域経済や日本の発展に寄与することを目指すという。