米国の宇宙企業ヴァージン・ギャラクティックは2021年3月30日、次世代宇宙船「スペースシップIII」の1号機「VSSイマジン」を発表した。

同社は今後試験を行うとともに、同型の2号機「VSSインスパイア」の製造も進め、サブオービタル飛行による宇宙旅行の実現を目指す。しかし、宇宙旅行の実現時期はまだ未定であるなど、その今後には不透明なところも多い。

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    2021年3月30日にお披露目された、次世代宇宙船「スペースシップIII」の1号機「VSSイマジン」 (C) Virgin Galactic

スペースシップツーからIIIへ

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、実業家サー・リチャード・ブランソン氏らによって立ち上げられた宇宙企業で、サブオービタル飛行と呼ばれる、地球を回る軌道には乗らない形での宇宙旅行の実現を目指している。

サブオービタル飛行は、地球の軌道に乗る宇宙船とは大きく異なり、宇宙空間にいられるのはわずか数分間しかない。それでも、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、最低限、宇宙にいる感覚を味わうことができる。

同社はこれまでに「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」と名付けた宇宙船を開発し、試験飛行を繰り返してきた。スペースシップツーは全長18.3m、高さ5.5m、翼長8.3mの、小型のスペースシャトルのような形の機体で、2人のパイロットと6人の乗客、あわせて8人が乗ることができる。

スペースシップツーは、「ホワイトナイトツー」と呼ばれる双胴機に吊るされて高度約5万ft(約15km)へ運ばれ分離。そこから機体後部に搭載した、ハイブリッド・ロケットを噴射して上昇する。ハイブリッド・ロケットは安全性が高く、民間人が乗ることを前提とした、同機の売りのひとつにもなっている。

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    双胴機「ホワイトナイトツー」に吊るされて飛行するスペースシップツー。空中発射は同社の宇宙機の特徴でもある (C) Virgin Galactic

やがて機体は高度80~100kmの宇宙空間に到達。その後降下し、そして、主翼の後ろ半分を約60度ほど折り曲げる「フェザー・モード」に移る。これにより、機体を安定させつつ、スピードを抑えながら、安全に降下することができる。バドミントンのシャトルが、羽根によってつねに球の部分を前にして飛ぶのと同じ理屈であり、フェザー(feather)というのも同じ羽根という意味である。

そして、ある程度降下したところで翼を元の状態に戻し、グライダーのように滑空飛行して、滑走路に着陸し、帰還する。

スペースシップツーはこれまでに2機が製造され、2014年には1号機「VSSエンタープライズ」が墜落する事故が発生したが、2018年に2号機「VSSユニティ」が試験飛行で宇宙空間に到達した。

ただ、設計変更やトラブルなどを繰り返しており、いまなお宇宙旅行の実現時期の見えない、足踏み状態が続いている。

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    宇宙に向かって飛ぶスペースシップツー (C) MarsScientific.com & Trumbull Studios via Virgin Galactic

スペースシップIIIへ

そんな中、同社は今回、スペースシップツーの後継機となる次世代宇宙船「スペースシップIII(SpaceShip III)」の1号機「VSSイマジン(Imagine)」を発表した。

基本的な姿かたちはスペースシップツーと同じであり、乗員数や到達できる高度などの性能もほぼ同じである。また、同社の宇宙船の特徴でもある、飛行機から空中発射するという打ち上げ方法も同じである。

一方、目立つ違いはその塗装で、スペースシップツーは基本的に白色に塗られていたが、スペースシップIIIは全体が鏡のように反射する鏡面塗装になっている。同社によると、この塗装には耐熱効果があるとし、また「地球から空、そして宇宙へと飛行する間に、反射した色が変化し続ける様子を楽しんでほしい」としている。

最も大きな違いは、製造効率や飛行頻度、メンテナンス性の向上を目指し、モジュール式の設計を採用したところだという。詳細は明らかにされていないが、胴体や翼、ロケット・モーターなどが簡単に付け替えられるようになっているものとみられる。

鏡面塗装にしたということは、スペースシップツーでは耐熱が不十分だったことを示唆している。また、姿かたちは似ているとはいえ、内部が大きく変わっているということは、まったく別物の機体といえる。

また細かい点だが、スペースシップツーは数字の部分が“Two”と表記されていたが、スペースシップIIIではローマ数字の“III”となっている。

同社によると、スペースシップIIIはより将来の宇宙船の設計、製造の基礎になるものだとし、また各宇宙港ごとに年間400回の飛行を目指すうえでの重要なマイルストーンだとしている。

ヴァージン・ギャラクティックのCEOを務めるマイケル・コルグラジエ(Michael Colglazier)氏は「このスペースシップIII級の機体は、ヴァージン・ギャラクティックにとって“艦隊”の始まりを意味します。VSSイマジンとVSSインスパイアは、未来の宇宙飛行士を宇宙への素晴らしい航海に連れて行ってくれる優れた船であり、その名前は有人宇宙飛行の向上心を反映しています」と語る。

VSSイマジンは今後、地上試験を始め、そして今夏にもニューメキシコ州にあるスペースポート・アメリカを拠点に滑空飛行を行う予定だという。

また並行して、スペースシップIIIの2号機である「VSSインスパイア(Inspire)」の製造も進んでいるとしている。

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    スペースシップIIIは全体が鏡のように反射する鏡面塗装になっているのが目を引く (C) Virgin Galactic