九州大学(九大)は4月1日、線香の煙を吸入すると気道が収縮しやすくなり、気道を覆う上皮のバリア機能も低下することで、ぜん息を悪化させる可能性があることを明らかにしたと発表した。

同成果は、九大大学院 医学研究院 呼吸器内科学分野の松元幸一郎 准教授、九大病院の神尾敬子 医員、同・山本宜男 医員らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

線香は日本をはじめ、アジアや中東の多くの国において、宗教的行事や香りを楽しんだりするものとして慣習的に使用されてきたが、実は燃焼時に多くの有害物質が発生しており、タバコの燃焼時よりも高濃度のPM2.5が長時間室内に浮遊することも近年の研究から判明している。

また最近の臨床研究からは、線香を日常的に使用する家庭の子どもは、使用しない家庭の子どもと比べてぜん息のリスクが高く、肺機能が低下しやすくなることなども報告されていた。しかし線香の煙の吸入が、肺や気道の機能にどのように影響するのかは、よくわかっていなかったという。

そこで今回の研究では、マウスに線香の煙を吸入させる実験を実施。その結果、気道過敏症が亢進。つまり、気道が収縮しぜん息を起こしやすくなり、肺に存在するタンパク質である「タイトジャンクション」の発現が低下してしまうことが判明したほか、線香の煙が気道を覆う上皮細胞のバリア機能を低下させることも判明したという。

タイトジャンクションは細胞同士を密に結合させ、気道上皮のバリア機能を保つタンパク質で、炎症の原因となる吸入抗原が、体内へ侵入することを防ぐ役割を担っていることが知られている。

なお、線香の煙によるマウスの肺や気道への有害な作用は、線香の煙を吸入したあとに発生した酸化ストレスによるものであるため、抗酸化剤を使用することで症状を改善することが可能だという。

また、九大病院に通院するぜん息患者の中には、線香の煙で咳が止まらなくなったり、呼吸が辛くなったりすることがある人もいるそうで、そういう経験がある人がいる場合は、線香の本数を減らしたり、室内の場合は換気を行ったりするなどして、できるだけ線香の煙を吸入しないように心がけた方が望ましいと研究チームでは説明している。

  • 線香

    (左)燃焼させる線香の量が多いほど、線香の煙に曝露されたマウスの気道過敏症が亢進されられた。(右)線香の煙への曝露は、マウスのタイトジャンクションの一種である「Claudin-2」と「ZO-1」の発現が低下することが示された (出所:九大プレスリリースPDF)