金沢大学は、褐色脂肪細胞の体内時計が障害されると太りやすくなることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大医薬保健研究域医学系の安藤仁教授らの共同研究グループによるもの。詳細は、2021年3年3日付で国際学術誌「Molecular Metabolism」に掲載された。

生体には約24時間を1周期とする概日リズム(サーカディアンリズム)が備わっているが、不規則な生活を続けると、リズムが崩れ、肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病を発症しやすくなることが知られている。

近年の研究から、概日リズムの発振機構が解明され、その本体は時計遺伝子群からなる細胞内体内時計であること、ならびに体内時計はほぼすべての細胞に備わっていること、そして体内時計の障害は生活習慣病の一因であることが分かってきていた。しかし、体内時計が障害されると、なぜ太りやすくなるのか、という機序については、よくわかっていなかったという。

熱を産生し、体温を維持するための機能を有している褐色脂肪細胞の機能が低い場合、太りやすく、生活習慣病になりやすいことが知られていることから研究グループでは今回、適切な熱産生には褐色脂肪細胞の体内時計が重要であり、その体内時計が障害された場合には太りやすくなるのではないかとの仮説を立てて研究を進めたという。

褐色脂肪細胞で特異的に体内時計機能を欠損する遺伝子改変マウス(BA-Bmal1 KO マウス)を作製し解析を行った結果、予想に反して遺伝子改変マウスの体温の日内リズムは、体内時計機能が保たれた対照マウスとほとんど変わりがなく、通常食を与えた時には体重も同等であることが判明したという。

しかし、遺伝子改変マウスでは褐色脂肪組織の温度が低く、対照マウスよりも行動量が多いうえに、骨格筋のシバリング(震え)も大きいことが判明。これは、遺伝子改変マウスでは、褐色脂肪細胞の熱産生が低下しているために、代償的に行動量の増加やシバリングで体温を維持していることが示唆されたという。

また、対照マウスの褐色脂肪細胞では、脂肪の利用に関連した分子群の発現に概日リズムが認められた一方、遺伝子改変マウスではこのリズムが乱れており、細胞内ので脂質、糖質、アミノ酸の代謝に関連する高エネルギー化合物であるアセチル CoAの量やエネルギー量も低下していること、ならびに高脂肪食を与えると、対照マウスよりも太りやすいことが判明したという。

これらの結果、褐色脂肪細胞の体内時計は脂肪のエネルギーを熱に変換するリズムを制御しており、このリズムが障害された場合に高脂肪食を摂取すると、より太りやすくなることがわかったと研究グループでは説明している。

そのため、体内時計の中枢(中枢時計)は視床下部にあり、その時刻は光刺激でセットされるが、中枢時計は睡眠・覚醒のリズムも制御することから、仕事などで不規則な生活を送らざるを得ない人たちでの中枢時計の乱れはやむを得ないものであるものの、褐色脂肪細胞の体内時計であれば、適切な食事習慣や薬物治療などにより整えることができる可能性があると研究グループでは考えているとのことで、今回の成果は、そうした新しい肥満の予防・治療法の開発につながることが期待されるものであるとしている。

  • 正常な状態(左)では、体温を維持するために交感神経が働き、褐色脂肪細胞において脂肪から熱へのエネルギー変換が活発になるため、行動やシバリングによる熱産生の必要性は高くないが、褐色脂肪細胞の体内時計が障害された場合(右)では、褐色脂肪細胞において脂肪から熱へのエネルギー変換が適切にできなくなるため、行動やシバリングにより体温を維持するようになることが判明した (出所:金沢大プレスリリースPDF)