北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は3月1日、リチウムイオン2次電池(LIB)の耐久性を向上させる「負極バインダー材料」の開発に成功したと発表した。

同成果は、JAIST 先端科学技術研究科 物質化学領域の松見紀佳教授、同・環境・エネルギー領域の金子達雄教授、同・バダム・ラージャシェーカル講師、同・アグマン・グプタ大学院生、同・アニルッダ ナグ元博士研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会発行の「ACS Applied Energy Materials」にオンライン掲載された。

リチウムイオン2次電池は、充放電を繰り返すことで、その充放電能力が劣化することが知られている。スマートフォンを購入した時は長時間稼働するが、1年、2年と使っているとバッテリーの減り方が早くなったと感じたことがあるはずだ(アプリがバックグラウンドで動作しているため減りが早いという場合もあるので一概には言えない)。しかし、スマートフォンやノートPCであれば、リチウムイオン2次電池が劣化したとしても、バッテリーパックや本体を買い換えることも可能な価格帯ながら、電気自動車(EV)クラスになると簡単に買い替えるとは言える価格ではない。

EVの航続距離を伸ばすためにはリチウムイオン2次電池の性能を向上させる、搭載量を増やす、といったことが考えられるが、搭載量を増やせば大型化し、重量も増すといった課題がある。また、バッテリーユニットを交換するにしてもそれなりの費用がかかってしまうため、徐々に航続距離や充電間隔が短くなっていくのをガマンすることが多くなってしまう。つまりリチウムイオン2次電池の経年劣化の問題は、EVをはじめとする高付加価値製品においては改善すべき課題となっている。

リチウムイオン2次電池が劣化する要因は多岐にわたるが、さまざまな電極内における副反応によるバインダーを含む電極複合材料の変性、電極/集電体の接着力の劣化が主要因の1つと考えられている。

リチウムイオン2次電池におけるバインダーは、負極において炭素材料などの「電極活物質」同士、もしくは活物質と集電体(主に銅箔など)を接着している。また正極においても、金属酸化物と集電体(主にアルミ箔など)を接着させることに使われている。つまり、これらを結びつける力が劣化しにくいバインダーを開発できれば、結果として劣化しにくいリチウムイオン2次電池の開発につながると考えられてきた。

そこで研究チームは今回、新たな負極用のバインダー材料として、「アセナフテキノン」と「1,4-フェニレンジアミン」とを酸触媒の存在下で重縮合することにより合成された高分子系バインダーを開発したという。

  • リチウムイオン2次電池

    (左)LIBにおける負極バインダー。(中央)今回開発された高分子系バインダーの構造と設計理念。(右)HOMO、LUMOエネルギー準位。HOMOとはLUMOの逆で、電子が占有している軌道の中でエネルギー準位が最も高い軌道のこと(最高被占軌道)。左から3番目がPVDF系で、最も右が今回開発された高分子系バインダー(BP-copolymer) (出所:JAIST Webサイト)

この高分子系バインダーは、長く使用されてきた「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」と比較すると、「LUMO」が低い電子構造的特徴を有しており、その結果として電解液の過剰な分解による厚い被膜形成を効果的に抑制することが判明したとする。

また、「サイクリックボルタンメトリー」のあとに見積もられたイオン拡散係数は、PVDF系と比較して15%高い値であったとするほか、ヤング率ならびに引張強度のどちらもPVDF系と比較して優れた力学的強靭さが示されたとしている。

さらに、リチウム脱挿入ピークの電位差についてもPVDF系と比較して100mV減少。より容易なリチウムイオンの拡散を支持する結果となったとしている。さらに、充放電後の電池セルにおける電極-電解質界面の電荷移動抵抗(界面抵抗)も62Ωと、PVDF系の110Ωよりも低い値を示したという。

  • リチウムイオン2次電池

    (左)サイクリックボルタンメトリーにより取得された、今回の高分子系およびPVDF系のバインダーを用いたハーフセルのサイクリックボルタモグラム(第一サイクル)。(右)高分子系とPVDF系の両バインダーのサイクル特性の比較 (出所:JAIST Webサイト)

今回開発された高分子系バインダーを用いたリチウムイオン2次電池では、1735回の充放電サイクルを経ても95%の容量維持率を示すことが確認されたという。

今回の開発された高分子系バインダーについて研究チームは、今後、セル構成や充放電条件の最適化を進めることで、優れた特性を有する蓄電デバイスの創出に結びつけたいとしている。また、さらに異なる材料組成で構成される高容量負極材料への適用も進めていくとしている。なお、高分子系バインダーは電極-電解質界面抵抗を低減できる高い機能性を持つことから、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が期待されるともしている。