九州大学(九大)は2月10日、脂肪細胞におけるGタンパク質共役型受容体の一種である「GPRC6A」のシグナル不全が脂肪の分解を抑制し、食餌誘発性の肥満とそれに起因する代謝異常を引き起こすことを明らかにしたと発表した。

同成果は、九大大学院 歯学研究院 OBT研究センターの向井悟学術研究員(現・東亜大学医療学部准教授)、同・溝上顕子准教授、福岡歯科大学 口腔医学研究センターの平田雅人客員教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載された。

Gタンパク質共役型受容体とは、細胞膜上に存在する受容体の一種だ。神経伝達物質やホルモンなどのさまざまなシグナルを受容して構造を変化させ、細胞内のGタンパク質を介して細胞内に情報を伝達する役割を担う。細胞膜を7回も貫通する特徴的な構造を持つことから、別名「7回膜貫通型受容体」とも呼ばれている。

そのGタンパク質共役型受容体の一種であるGPRC6Aは、骨ホルモンであるオステオカルシン、オルニチンといったアミノ酸、テストステロン、細胞外Ca2+などの多様な分子に応答する。これまでのマウスを用いた実験で、GPRC6Aを持たないようにすると、メタボリックシンドロームが進行したり、骨量が減少したりと数々の異常を示すことがわかっていたが、実はその詳細な役割は不明だった。

共同研究チームはこれまで、特に脂肪細胞のGPRC6Aがオステオカルシンにより活性化し、脂肪細胞を縮小させることを明らかにしていた。そこで、脂肪細胞におけるGPRC6Aシグナルが重要ではないかと推察し、脂肪特異的にGPRC6Aを持たないマウス(adG6AKO)を作成。GPRC6Aを介したシグナル経路が、脂肪蓄積を制御するメカニズムの解析が行われた。

adG6AKOマウスを高栄養食で飼育すると、GPRC6Aを持つマウスと摂食量はほぼ同じであるにも関わらず体重増加が著しいことが判明。また、adG6AKOマウスの脂肪細胞は著しく肥大しており、肝臓への脂肪蓄積も顕著であることも明らかになった。

  • 脂肪細胞

    左が通常のマウスで、右が脂肪特異的にGPRC6Aを持たないadG6AKOマウス。下のふたつはそれぞれの脂肪組織の顕微鏡画像で、adG6AKOマウスの脂肪組織では、脂肪細胞が著しく肥大しているのが見て取れる (出所:共同プレスリリースPDF)

続いて行われたのが、脂肪細胞における脂肪酸取り込み、中性脂肪合成、脂肪分解の各ステップに関わる分子群の発現の比較だ。すると、adG6AKOマウスの脂肪組織では脂肪を分解する酵素群が著しく減少しており、脂肪分解が抑制されていることがわかったのである。その結果、adG6AKOマウスでは肥満、高血糖、耐糖能異常などのメタボリックシンドローム様を呈することが確認された。

またGPRC6Aは多様な分子に応答するが、今回の研究では脂肪分解酵素の発現を上昇させるにはオステオカルシンとオルニチンが最も有効であることが確認されたことから、脂肪細胞をオステオカルシンやオルニチンで刺激することが行われた。すると、脂肪分解酵素群の発現が増加したのである。

このことは、adG6AKOマウスの肥満は、オステオカルシンやオルニチンによる恒常的なGPRC6Aシグナルがなくなったことによって脂肪分解酵素が減少し、脂肪分解が抑制されたことに起因していることを示すということだ。脂肪細胞におけるGPRC6Aシグナルの恒常的な活性化が脂肪の分解を促進し、全身の代謝調節に重要な役割を果たしていることが明らかとなったのである。

今回の成果により、脂肪組織におけるオステオカルシンやオルニチンによる恒常的なGPRC6Aシグナルが、肥満を抑制することが明らかとなった。共同研究チームは、今回の成果が肥満治療法開発につながることを期待しているとした。