順天堂大学は、細胞外マトリックス(ECM)分子の一つであるパールカン(perlecan)が、生活習慣病の発症に関わることを明らかにしたと発表した。パールカンの働きを調節することで、生活習慣病の予防や治療が可能であると考えられるという。

  • パールカン欠損マウスの特徴(出所:順天堂大学ニュースリリース)

    パールカン欠損マウスの特徴(出所:順天堂大学ニュースリリース)

同研究は、順天堂大学大学院医学研究科老化・疾患生体制御学の山下由莉特任助手、平澤恵理教授、神経学の服部信孝教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、5月17日にnature系列誌の「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

生活習慣病の発症および病態には脂肪組織と骨格筋が深く関与していることが知られている。また、過去の研究により、組織の形態維持や機能調節に関わる細胞外マトリックスの主要構成成分「パールカン」が代謝臓器の機能を制御することによって、生活習慣病の発症に深く関与している可能性が高いことが考えられているという。パールカンは、細胞内への脂質の取り込みに関与しているため、同研究では、パールカンを欠損させたマウスを用い、脂肪組織や骨格筋の機能変化およびエネルギー代謝の変化についての調査を行なったということだ。

  • パールカンの作用(出所:順天堂大学ニュースリリース)

    パールカンの作用(出所:順天堂大学ニュースリリース)

最初に、パールカン欠損マウスと野生型マウスで、通常食または高脂肪食を与えた際の体重変化率と脂質蓄積量について比較したところ、パールカン欠損マウスでは食事の種類に関わらず内臓脂肪組織の重量および脂肪細胞の大きさが低下し、肥満が抑制されることがわかった。また、高脂肪食を与えた場合、パールカン欠損マウスでは高コレステロール血症や脂肪肝の形成が抑制され、インスリン抵抗性も改善されることがわかった。両群間で摂食量や脂質合成量に違いは見られなかったことから、パールカン欠損マウスではエネルギー消費が亢進している可能性が考えられたという。

次に、両マウス間で全身の酸素消費を比較したところ、パールカン欠損マウスでは酸素消費量が著明に増加していたという。脂肪酸の分解(β酸化)亢進によるエネルギー消費量の増大が示唆されたため、骨格筋における赤筋化が全身の酸素消費量増加をもたらしていると考えられるという。加えて、同骨格筋では、運動時に発現が誘導され、エネルギー代謝や熱消費を促進するPGC1αの発現の上昇が認められた。つまり、パールカンは、運動効果を制御することで骨格筋の赤筋化を抑制し、全身の脂質代謝を負に制御していると考えられるという。以上から、ECMの成分であるパールカンが、運動および食事などの外的刺激に応じた脂肪組織と骨格筋の動的変化を制御し、個体の全身性代謝制御を調整していることを明らかにしたということだ。

パールカンは個体の発生および分化に必須の分子である一方、過剰な栄養によりもたらされる生活習慣病には負の効果をもたらすことから、その働きを調節することで生活習慣病の予防や治療が可能であると考えられるという。今後は、臓器連関の詳細な分子メカニズムを明らかにすることで、ECMをハブとした各種臓器間の代謝ネットワークの全体像を明らかにするとともに、肥満および生活習慣病の病態解明や予防・治療法の開発に繋げていきたいということだ。