東京大学(東大)などの研究チームは2月12日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した患者における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する「抗体応答」の解析を実施した結果、ウイルスの感染で誘導された抗体が、発症後少なくとも3~6か月間は患者の体内で維持されることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東大 医科学研究所 感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授を中心に、藤沢市民病院、済生会中央病院、済生会宇都宮病院、永寿総合病院、けいゆう病院、国立国際医療研究センター、横浜市立大学、米・ウィスコンシン大学の研究者らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英・オープンアクセス臨床誌「EClinicalMedicine」に掲載された。

SARS-CoV-2のパンデミック初期の研究では、COVID-19患者では同ウイルスに対する抗体が誘導されるものの、1か月程度で検出限界以下に低下する可能性が示唆されていた。そのため、COVID-19が治ったあとも、再感染が容易に起こるのではないかと懸念されていた。

こうした懸念を受けて研究チームは今回、39名のCOVID-19患者に対する経時的な採決を実施、その血中に含まれる抗体の量を発症から3~6か月にわたって計測し、抗体量の変動調査を行った。

抗体量の測定方法は、ELISA(イライザ)法と中和試験が用いられた。ELISA法とは、抗原とするタンパク質を結合させたプラスチックプレートを用いて、抗原タンパク質に対する抗体量を高感度に測定する手法のことだ。抗原タンパク質に対して結合する抗体を測定するため、抗体の量を知ることはできるが、ウイルスの増殖を阻害する活性を持つ抗体がどれくらいあるかを知ることはできないという特性がある。

一方の中和試験は、本物のSARS-CoV-2が細胞に感染する過程を阻害する(中和活性を持つ)抗体量を測定することが可能。ELISAと比較すると感度は高くないものの、抗体の質を評価することができる。

そして抗原タンパク質として用いられたのは、細胞への侵入で“カギ”に例えられているSARS-CoV-2の「スパイクタンパク質」の中核部分であるレセプター結合領域、同タンパク質の細胞外領域(ウイルスの表面にある領域)、またはSARS-CoV-2の粒子内部にあってウイルスのゲノムRNAと結合している「Nタンパク質」の3種類だ。

39名の抗体応答の解析から、スパイクタンパク質の細胞外領域に対する抗体応答が最も早く惹起され、その後スパイクタンパク質のレセプター結合領域やNタンパク質に対する抗体および中和活性を持つ抗体が誘導されることが解明された。

  • COVID-19患者におけるSARS-CoV-2に対する抗体価の変動。赤線は抗体価の中央値が示されており、グレーの領域は95%の最高密度区間が示されている (出所:共同プレスリリースPDF),新型コロナ

誘導された各種抗体の量は、発症20日目ぐらいをピークとし、その後減少していくことも確認された。しかし、その減少速度は次第に穏やかになるため、抗体がすぐに検出限界以下になることはなく、発症後約3~6か月間は維持されることが判明したのである。

これまで、抗体がすぐに消失するという結果や、長期にわたって持続するという結果など、異なる結果が報告されていたという。その正反対の結果は、用いた検査の抗体検出感度に起因することが考えられるとした。抗体がすぐに消失するという結果は、検出感度が低いため、実際には抗体が持続しているにもかかわらず、抗体があたかもすぐに消失するかのごとく見えてしまったと考えられるという。

次に、39名の患者を軽症グループ、中等症グループおよび重症グループの3グループに分けたうえで、抗体応答の比較が実施された。各患者の最高抗体価を各グループで平均しての比較が行われ、重症グループの平均値は軽症グループの平均値よりも高いことが明らかとなった。

しかし、発症60日以降における抗体価の平均値が3グループ間で比較された際は、重症グループの抗体価の減少が軽症グループの減少よりも著しかったため、重症グループと軽症グループ間における抗体価の差が縮小していることが確認された。

今回の研究により、SARS-CoV-2に感染した場合に誘導される抗体が短期に消失することなく、半年程度にわたり維持されることが確かめられた。今回のような抗体応答の挙動は、一般的な急性感染症の初めての感染時に見られる抗体応答と同様であると考えられるという。

その一方で、SARS-CoV-2への再感染例も少数報告されているのも事実。今回の研究においても、弱い抗体応答しか認められない症例が確認されていることから、初感染により誘導された抗体価が低かった可能性が考えられるとする。今後、充分な抗体が誘導されない危険因子について、さらなる検証が必要だとしている。