地球外知的生命体探査(SETI)プロジェクト「SETI@home」の運用チームは2020年12月24日、SETI@homeの現状や今後の計画、展望について発表した。

約20年間にわたって行われてきた、地球外知的生命体からの信号を探す解析作業は、現在その最終段階に入り、有意な信号を識別するためのシステムの開発が進行中。さらに、中国が保有する世界最大の電波望遠鏡や、まったく新しい観測装置を使った、新しいSETIプロジェクトも始める予定だという。

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    SETI@homeで解析中の画面 (C) SETI@home/University of California

SETI@home

SETI@homeは、電波望遠鏡が集めた宇宙の観測データの中から、地球外知的生命体からの信号がないかどうかを探すプロジェクトで、カリフォルニア大学バークレー校が中心となって運営している。SETIとは「Search for Extra-Terrestrial Intelligence (地球外知的生命体探査)」を意味する。

このプロジェクトはまた、インターネットでつながった世界各地のパソコンにデータを送り、それぞれが解析した結果を集めることで、あたかも高性能なスーパーコンピューターで分析したのと変わらない結果が得られるという特徴ももっていた。現代では当たり前になった、いわゆる分散コンピューティングの先駆け、代表例としても知られる。

とくに「@home」という名前にも表れているように、誰でもパソコンとインターネット環境があれば、作業中の余ったリソースを利用したり、スクリーンセーバーが起動したりしたときに解析できることから、気軽に宇宙人探査に貢献できるとして人気を集めた。

当初は専用のクライアント・ソフトが用いられていたが、のちに汎用的な「BOINC」が使われるようになった。BOINCは現在でも、天文学や数学のさまざまな問題や、がんやHIV、そして新型コロナウイルスなどの解析プロジェクトが行われている。

SETI@homeの分析に使う観測データは、プエルトリコにあったアレシボ天文台の305m電波望遠鏡(今月初めに崩壊)が35年間にわたって受信したものが主に使われたほか、のちに米国のグリーン・バンク天文台の電波望遠鏡のデータも用いられた。

プロジェクトが始まったのは1999年5月17日のことで、以来約20年間、データの分析が行われてきたが、新しいデータがなくなったことなどから、今年4月には、世界中のコンピューターへの新しいデータの配布が終了した。

現在、SETI@homeのプロジェクト・チームでは、地上由来の電波や人工衛星からの電波などの雑音(ノイズ)を除去し、地球外文明からの潜在的な電波信号を識別してランク付けするためのアルゴリズムとソフトウェアからなる「ネビュラ(Nebula)」と呼ばれるシステムの開発を行っているという。

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    SETI@homeの分析に使うデータは、プエルトリコにあったアレシボ天文台の305m電波望遠鏡が35年間にわたって受信したものが主に使われた。なお、同望遠鏡は今月初めに崩壊した (C) NAIC/Arecibo Observatory

新しいSETIプロジェクト

SETI@homeがひとつの終わりを迎えた一方で、2つの新しいSETIプロジェクトがスタートしている。

ひとつは、中国が2016年に建設した直径500mの世界最大の電波望遠鏡「天眼(FAST)」を使ったSETIで、すでに望遠鏡に「SERENDIP SETI」と呼ばれる分析装置を取り付け、探索を始めているという。期間はひとまず3年間とされ、また解析には前述のネビュラを活用するという。

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    中国が建設した直径500mの世界最大の電波望遠鏡「天眼(FAST)」 (C) 中国科学院地質・地球物理学研究所

もうひとつは、「PANOSETI(Pulsed All-sky Near-infrared Optical SETI)」と呼ばれる新しいタイプのSETI装置による観測プロジェクトである。

PANOSETIは80台の望遠鏡を1セットとした、ハエの目のような形の望遠鏡で、従来のような電波信号ではなく、可視光と赤外線の光パルスを捉えることも目的としている。とくに、ナノ秒から秒単位という短い時間スケールで発生する光パルスを、北半球の全天を対象に探索すことができるという特徴をもっていることから、地球外文明からの信号や通信、ダイソン球からの赤外線放射などが見つかるのではと期待されている。

プロジェクト・チームによると、「他の文明と通信したり、注意を引きつけたりするためのひとつの方法は、灯台のようなフラッシュを出すことです。もし地球の外に知的文明があれば、ナノ秒単位のフラッシュを使って通信したがるでしょう」と語る。

また、天文現象の観測にも役立ち、たとえば近年発見された謎の天体物理現象である「高速電波バースト」にともなって放出される可視光を観測することなども目的としている。

計画にはカリフォルニア大学バークレー校とハーバード大学、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校が共同で参画。すでに、カリフォルニア大学が所有するリック天文台で試作品が造られており、今後2か所に観測所を建てることを計画しているという。

カリフォルニア大学バークレー校SETI研究センターの主任技術者であり、PANOSETIの共同研究者でもあるDan Werthimer氏は、「PANOSETIは、地球人がこれまで詳しく調べたことのない、10億分の1秒単位という細かい時間スケールで宇宙を探査できます。天文学者がこのまったく新しい手段で宇宙を調べることで、新たな天文現象や地球外知的生命体からの信号など、誰も予想していなかったような驚くべきものを発見できる可能性があります」と期待を語っている。

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    PANOSETIの試作品 (C) SETI@home/University of California

またSETI@homeのプロジェクト・チームでは、SETI@homeのデータの最終分析を行うため、また天眼とPANOSETIでの新たなSETIプロジェクトの立ち上げのために、寄付を募集している。

参考文献

Winter 2020 SETI@home Letter
PANOSETI
Innovative Telescopes Set to Detect New Signals from Deep Space
New telescope to look for laser pulses from life around other planets | Berkeley News
First SETI Observations with China’s Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope (FAST)