東京大学(東大)は、海洋地殻上部の玄武岩の亀裂に存在する粘土鉱物から、微生物細胞数を計測する技術を新たに開発した。その結果、従来の予想と異なる有機物をエネルギー源にしている従属栄養生物が発見された。また、驚くべきことに、その数は人間の腸内と同等数である100億個/ cm3であることを発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平 准教授の研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「COMMUNICATIONS BIOLOGY」にオンライン掲載された

  • 削船ジョイデス・レゾリューション号(左上)、IODP第329次研究航海で得られた亀裂を含む玄武岩コア(右上)、岩石の亀裂に沿って粘土鉱物が形成する領域の蛍光顕微鏡図(下)。緑色部がDNA染色された微生物細胞、オレンジ色が粘土鉱物、黄色部は粘土鉱物と微生物細胞が混在する領域を示す (出所:東京大学)

地球表面積の70%を占める海洋地殻の上部を構成する岩石は、玄武岩である。これらの玄武岩は、形成年代が1,000万年前より古く、状態が固定されている。そのため、岩石の中で供給されるエネルギーが少ないと考えられ、岩石内での生命が生息可能かどうかは不明であった。

この岩石内の環境は、37億年前の大規模な噴火により火星表面に広がったなかでも、地下深部に存在する生命活動に必要な水を含んだ玄武岩内の環境と類似している。もし、海洋近くの上部を構成する玄武岩で、微生物の生存を確認できれば、生命の起源や火星の地下深部に地球外生命体が存在する可能性が示唆される。

しかし、これまで玄武岩のような硬い岩石内部の微生物は、掘削による汚染や岩石内部を調べる技術がなかったため、未解明であった。

そこで、研究グループは、まずガリウムイオンビームを使用した固体試料から、薄片を作成できる収束イオンビーム加工技術を用いて試料を採取した。次に高空間分解能二次イオン質量分析装置を用い、炭素、窒素、硫黄、リンといった生体主要元素の細胞レベルでのイメージングを行い、岩石内部の微生物細胞について観察を行った。

その結果、エネルギーに乏しい玄武岩内部での細胞密度は、せいぜい10万個/ cm3程度と考えられてきた従来の考えに反し、実際は10億個/ cm3と著しく高い細胞密度であることが明らかになった。

これは人間の腸内の微生物の細胞密度と同等数である。さらに、岩石試料中の微生物のDNA解析を行った結果、岩石内で優占するのは、有機物をエネルギー源とする従属栄養細菌であることがわかった。

では、なぜエネルギーに乏しいはずの玄武岩に、有機物を必要とする従属栄養細菌が生育するのだろうか。

玄武岩は、高温のマグマから形成するため、もともとは有機物を含んでいない。しかし、高温の状態から冷却されることで形成される途中で生成された有機物や、外部から流入にしてきた有機物が、濃集すると考えられる。この濃集は、岩石の形成過程で普遍的なものであると考えられることから、粘度鉱物が従属栄養生物の存続と密接に関係していることが示唆された。

ただし、この有機物が外部の海水由来なのか、岩石内で合成されたものかは現段階で不明であり、今後の究明が待たれる。

なお研究グループによると、本研究で明らかとなった粘土鉱物で充填される玄武岩の亀裂は、火星の地下深部に存在する玄武岩内の環境に類似することから、今後の火星の生命探査おいても極めて重要なターゲットになりえるとのことだ。