国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所に属する港湾空港技術研究所(PARI)は11月19日、スーパームーンが砂浜の地形変化に影響を与えていることを実証したと発表した。

同成果は、PARI 沿岸土砂管理研究グループの伴野雅之主任研究官らの研究チームによるもの。詳細は、科学誌「Geophysical Research Letters」にオンライン掲載された。

スーパームーンとは、地球と月の最接近(近地点)と満月のタイミングが重なることで、通常よりも大きく見える満月のこととされる(新月の場合もスーパームーンと呼ばれる)。ただし天文学の正式な用語ではないため、視直径や地球~月間の距離など、明確な定義(条件)は決められていない。ただし、現在では満月のうちで36万km以下まで接近するとスーパームーンとする模様。そのため、必ずしもその年で最接近した満月だけというわけではなく、複数回スーパームーンがあるときもある。

地球~月間の距離が変化するのは、月の公転軌道は楕円のためだ。地球~月間の平均距離は38万kmだが、最接近したときは約35万7000kmとなり、最も離れたときは約40万6000kmとなる。その差は約4万9000kmもあり、それだけ見た目のサイズも変わってくる。視直径で比較すると14%の差があり、面積が変わることから明るさも大きく異なる。

このスーパームーン、見た目だけの話ではない。月はもともと海の干満を作り出すなど、地球上においてさまざまな事象に影響を与えているが、スーパームーンは最接近することから地球に及ぼす重力が最も強くなるのだ。

結果として、スーパームーンのときは通常の満月よりも起潮力が大きく、通常の大潮よりも大きな干満差を生じさせ、高い海面水位が記録されている。欧米ではこれを「キングタイド」(king tide)と呼び、沿岸域の浸水リスクが増大することが知られている。ただし、満月やスーパームーンが砂浜の地形に与える影響については、これまでわかっていなかった。

今回の研究では、茨城県の波崎海岸に24年間にわたって観測された海浜地形の変化を対象としたスペクトル解析と統計解析が行われた。

  • スーパームーン

    今回の研究で用いられた長期の地形観測が行われた茨城県神栖市の波崎海岸 (出所:PARIプレスリリースPDF)

まずスペクトル解析の結果、海浜地形が満月・新月周期(14.77日周期)、近地点周期(27.55に地周期)で変動していることが判明。ふたつの周期が同期するスーパームーンの際に、波の遡上域の上部で浸食が生じやすくなることが明らかにされた。

  • スーパームーン

    海浜地形の変動の周波数別エネルギーから判明した月に関連した周期。なおグラフの縦軸のパワースペクトル密度は、その周期において砂浜の変動の大きさを表したものだ (出所:PARIプレスリリースPDF)

  • スーパームーン

    今回の研究で明らかとなったスーパームーンに伴う地形変化の回略図 (出所:PARIプレスリリースPDF)

なお波の遡上域とは、海と陸の境界、つまり海岸線付近の波が上ってくる場所のこと。一般には干潮時の引き波か満潮時の遡上限界までを指す(波の状態によってもその領域は変化する)。

過去のスーパームーンの際に起こった地形変化に対する統計的な解析では、通常の地形変化と比較して、海岸線が平均で1日あたり0.47m後退していることが判明。またスーパームーンの際には、同じ波浪条件でも49%も浸食が大きくなることも示唆されたという。

このようなスーパームーンによる地形変化は、月が接近することで重力の影響が強まり、それで生じる大きな干満差によって海水面と砂浜中の地下水位にギャップが生じることで起こっている現象だと考えられるとしている。

スーパームーンに伴うキングタイドによって、浸水リスクだけでなく、海岸浸食リスクも高まることが、今回の研究によって明らかになった。スーパームーンと高波浪や高潮が重なると予測される場合には、事前に沿岸災害に対する注意が必要だという。また、将来の海面上昇に伴う海岸線の後退に加えて、長期的な砂浜幅の維持管理など、今回の知見を反映したより正確な沿岸域の管理が求められるとしている。

ちなみに、次回のスーパームーンは2021年5月26日。このときは実は皆既月食でもあり、日本全国のほか、ハワイやオーストラリアなどでも見られる。このときの地球~月間の距離はほぼ35万7000kmだ。