富山大学は、ダークマター(暗黒物質)による構造形成の理論に基づき、天の川銀河を巡る衛星銀河のひとつで、同物質が多いとされる「矮小楕円銀河」中の同物質の量を再評価した結果、この系の同物質の密度は従来の評価よりも小さいことを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大学学術研究部理学系の廣島渚助教らの研究チームによるもの。詳細は、「Physical Review D」に掲載された。

宇宙の全エネルギー密度のうち、ダークマターが占める割合は20%強とされる。ダークマターはあらゆる光・電磁波で観測することができず、目に見える通常の物質とは重力のみによって相互作用するという特徴を持つが、依然としてその正体はわかっていない。

ダークマター同士がごく希に衝突すると、まるで物質と反物質が出会ったときのように対消滅し、ガンマ線を出すと考えられている。そうしたダークマター由来のものも含め、宇宙のさまざまなガンマ線を観測するためにNASAが2008年に打ち上げたのが「フェルミ宇宙望遠鏡」だ。

ダークマターの宇宙における3次元的な分布については、重力レンズ効果を利用することで把握が進んでいる。天の川銀河の周辺でダークマターの密度が濃いとされ、フェルミ宇宙望遠鏡による観測も行われたのが矮小楕円銀河だ。その観測により、ダークマターの候補のひとつである「WIMP」(Weakly Interacting Massive Particle)は、「対消滅断面積」に厳しい制限をつけられたのであった。

WIMPは「コールドダークマター」(冷たい暗黒物質)とも呼ばれ、ダークマター候補の最右翼と考えられていたが、否定する研究成果も発表されており、WIMPがダークマターなのかは今のところまだわかっていない。

そうしたダークマター研究の流れを受けて、廣島助教らは今回、その構造形成および進化の理論と、ガンマ線観測の結果を統合的に分析。そして、矮小楕円銀河のガンマ線観測によるWIMP対消滅断面積の制限についての再評価を実施した。

矮小楕円銀河のような系の性質は、膨張宇宙の中においてはダークマターの階層構造の進化で決定される。そのような階層構造についての考察から得られる矮小楕円銀河内のダークマターの密度は、今回の再評価によれば、先行研究で得られたものよりも小さいことが確認されたという。つまり、矮小楕円銀河においては従来期待されていたほど、ダークマターの対消滅によるガンマ線は発生しないとした。

この再評価は、フェルミ宇宙望遠鏡の観測による従来のWIMP対消滅断面積の制限を緩和するものになる。廣島助教らは、今回の成果はダークマターの探索における今後の戦略についても再検討の必要性を示唆する結果だとしている。