東京都立大学の田岡万悟准教授らの研究グループは18日、超好熱古細菌が高温環境で育つとRNAの構造が安定になることを1塩基レベルで識別した、と発表した。この技術を応用すれば、RNAの異常な反応で生じる筋萎縮性側索硬化症(ALS)など難病の解析や早期診断、創薬などに道を開く成果という。

この古細菌は、鹿児島県のトカラ列島にある小宝島(こだからじま)の硫気孔で見つかった「T.kodakarensis」。生育可能温度は60~100度で、85度が最適な温度という。酸素の代わりに硫黄を使ってエネルギーを得ている変わり種だ。2005年には全ゲノムが解読された。

研究グループは古細菌のRNAを構成する4つの塩基のうち、シトシンの誘導体が「アセチル化」という化学修飾によって生じる「Ac4C」と呼ばれる安定な化合物に着目。RNAから転写したDNAをPCR法で増幅するなどして、Ac4Cを1塩基レベルで識別することが可能になった。

続いて古細菌を65度、75度、85度と異なる3つの温度で培養し、質量分析とクライオ(低温)電子顕微鏡を組み合わせてRNAの詳しい立体構造を解析した。培養温度が高いほどAc4Cが多くなり、構造が安定することを突き止めたという。

  • alt

    異なる温度で培養した超好熱古細菌のRNAに存在するAc4C(水色の部分)。培養温度の上昇に伴って数が大幅に増加していることが分かる(東京都立大学提供)

Ac4Cは細菌から人間にいたるまで、ほとんどの生物細胞に含まれている。しかし、これまではAc4Cを効率よく高感度で網羅的・定量的に解析する方法がなかったため、RNA中の詳しい分布や、RNAの構造と機能に及ぼす影響などはよく分かっていなかった。

田岡准教授は「次世代型の転写後修飾解析、質量分析、クライオ電子顕微鏡などを組み合わせれば、難病を引き起こす原因物質の構造が詳細に分かるようになり、診断や治療に貢献するだろう」と話している。

イスラエルのワイツマン科学研究所、米国立衛生研究所(NIH)などとの共同研究。論文は英科学誌「ネイチャー」(電子版)に17日(現地時間)掲載された。

関連記事

「絶滅危惧の野生集団、有害な変異が蓄積 遺伝研が調査」

「情報・符号理論と古代人ゲノム解読研究の欧米2博士に 今年の日本国際賞」