米国の宇宙企業「テザーズ・アンリミテッド(TUI)」は2020年1月16日、小型衛星からテープ(テザー)を展開し、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)を除去する技術の実証試験に成功したと発表した。

同社が開発した装置は、小型・超小型衛星にも取り付けられるほど小型・軽量かつ低コストなのが特長で、今後も実証を重ね、事業化を目指す。

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    「ターミネーター・テープ」を伸ばして軌道変更を行う小型衛星の想像図 (C) Tethers Unlimited, Inc.

TUIの「ターミネーター・テープ」とは?

テザーズ・アンリミテッド(TUI、Tethers Unlimited, Inc.)は、1994年に物理学者・エンジニアのロバート・P・ホイト氏と、物理学者でSF作家としても知られるロバート・L・フォワード氏によって設立された企業である。ホイト氏は、宇宙における「テザー(ロープ)」技術のパイオニアとして知られ、同社ではその技術を使い、さまざまな製品の開発を進めている。

同社がかねてより研究・事業化を進めているテーマのひとつに、「ターミネーター・テープ(Terminator Tape)」と呼ばれる、テザーを使ったスペース・デブリ(宇宙ゴミ)の除去がある。これは衛星から導電性のテープを展開し、それが地球周辺の宇宙環境と相互作用して抗力を生み出すことで、衛星にブレーキをかけ、軌道離脱して大気圏に再突入するまでの時間を短縮させることを目指したものである。

ターミネーター・テープの特長は、小型衛星向けにシステムが限りなく小型・軽量されている点で、大きさはノートほどで、質量は約900gも満たない。近年、世界中の大学や宇宙ベンチャーが小型衛星の開発や打ち上げを行っているが、その小ささゆえに、運用終了時に軌道を離脱するだけの推進剤の余裕がなかったり、あるいはそもそも推進システムを搭載していないものが多く、そのため運用終了後もデブリとして軌道に残り続けたり、他の衛星に衝突して新たなデブリを生み出したりといった懸念がある。

しかしターミネーター・テープなら、推進剤が不要であり、また小型で搭載しやすく、さらに既存のデブリなどに装着しても機能することなどから、同社では「デブリの除去方法として有力である」としている。

今回の試験は、ジョージア工科大学が開発した「プロックス1(Prox-1)」という小型衛星に搭載して行われた。プロックス1は2019年6月に、スペースXの「ファルコン・ヘヴィ」ロケットで、他の23機の小型衛星とともに打ち上げに成功。ロケットから分離されたのち、衛星内に搭載していた超小型衛星を放出、さらにその後は単独で地球を周回していた。

そして同年9月に、ターミネーター・テープを展開。長さ約70mのテープが生み出す抗力の働きによって、軌道速度を徐々に失い、高度を下げていった。

宇宙空間にある物体を監視・追跡している米軍の宇宙監視ネットワークによると、テザーを展開する前と比べ、軌道の降下率は24倍以上にも増加したという。

ホイト氏は「通常、こうした衛星は何百年も軌道にとどまり続けるが、この方法により約10年で軌道離脱が可能になる。今回の実証の成功により、この技術がデブリ除去とスペース・デブリ問題の解決にとって効果的な手段であることを証明した」と語る。

同社によると、装置をさらに小型化し、数kgのキューブサット級の超小型衛星に搭載できるようしたものもあり、また逆に、テープを大きくすれば、大きな衛星にも応用できるという。

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    ターミネーター・テープのモジュール。この板のような蓋の下にテープが収納されており、コマンドやタイマーによって展開、蓋をエンドマスとして伸びる (C) Tethers Unlimited, Inc.

同社はまた、プロックス1とともに打ち上げられた「NPSat-1」という衛星にもターミネーター・テープが搭載されており、2020年末ごろに展開する予定であるとしている。

さらに、米国の宇宙ニュース紙「SpaceNews」の報道によると、米国の非営利団体エアロスペース・コーポレーション(Aerospace Corporation)が、現在軌道上で運用している2機のキューブサットにも同テープが搭載されているとし、今後ミッションの終了を待って展開することになっているという。

さらに今年後半には、「ドラッグレーサー(DRAGRACER)」と呼ばれる、別の実証ミッションも行うという。これは2機の同型の衛星からなり、片方にはターミネーター・テープを搭載し、もう片方には搭載せずに運用することで、テープの有無による軌道降下率の違いなどを正確に調べることを目的としているという。

ちなみに、導電性テザーの展開やそれによる軌道変更の技術実証自体は、1990年代にNASAの小型衛星によって行われたことがある。

また、こうした仕組みを使ったデブリ除去の技術は、TUI以外でも世界中で開発が進んでおり、とくに日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)や、人工流れ星を作り出そうとしている「ALE」が、研究・開発や新規事業の創出に挑んでいる。

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    JAXAが2017年に行った、「こうのとり」6号機を使った「HTV搭載導電性テザー実証実験(KITE)」の想像図。不具合が発生し、完全な成功とはいかなかったものの、一部の技術要素については実証できたとし、ビジネスへ活かされようとしている (C) JAXA

出典

Taking Out the Space Trash: Tethers Unlimited Announces Successful Operation of Space-Debris Removal Device - Tethers Unlimited, Inc.
TERM TAPE - Tethers Unlimited, Inc.
2019 Terminator Tape
Prox-1 Mission
株式会社ALE、宇宙デブリの拡散防止に貢献する装置の開発に着手 - News -ALE Co., Ltd.

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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