米宇宙企業「スペースX」は2020年1月7日、宇宙インターネット・システム「スターリンク」を構成する衛星60機を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。

同社では来年までに、日本を含む世界中でのインターネット接続サービスの開始を予定。また、かねてより懸念されていた衛星の反射光による光害への対策として、衛星の1機に衛星の反射率を下げる試みも施されている。

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    スターリンク衛星60機を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

スターリンク衛星を搭載したファルコン9は、日本時間1月7日11時19分(米東部標準時6日21時19分)、フロリダ州にあるケープ・カナベラル空軍ステーションの第40発射台(SLC-40)から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、1時間1分後に搭載していた60機のスターリンク衛星を分離。打ち上げは成功した。

衛星は現在、高度約290kmの円軌道に入っており、このあと1機ずつに分かれ、それぞれの機能確認を行ったのち、衛星が装備しているスラスターを使い、高度約550kmの運用を行う軌道に入る。

今回のファルコン9の1段目機体は、2018年9月と2019年1月、5月にも打ち上げられ、回収された機体で、今回が3回目の再使用による4回目の飛行だった。また今回の打ち上げ後も、機体の回収に成功している。

スターリンク

スターリンク(Starlink)は、スペースXが構築を進めている宇宙インターネット・システムで、大量の衛星を地球低軌道に打ち上げ、地球を覆うように配備し、全世界にブロードバンド・インターネットをつなげることを目指している。

現在、世界の全人口のうち、約半数がインターネットにアクセスできない環境にあり、デジタル・ディバイド(情報格差)が問題となっている。また、米国でもブロードバンドが行き届いていないところはまだまだある。

スターリンクのような宇宙インターネットが実現すれば、理論的には南極や北極でも自由にネットが使えるようになり、情報格差を改善するとともに、新たなビジネス・チャンスにもなると期待されている。

スターリンクの衛星は1機あたり約260kgで、板のような平べったい構造をしており、重箱のように60機を積み重ねてロケットに搭載。ロケットからは60機がつながった状態で分離し、その後衛星を切り離し、それぞれが電気推進スラスターを使って運用を行う軌道へと乗り移る。

スターリンクの衛星は、2018年に2機の技術実証機が打ち上げられたのち、2019年5月に60機の試験機が打ち上げられた。10月には、スペースXのイーロン・マスクCEOがこの衛星を使ってインターネットに接続し、ツイッターに文章を投稿するパフォーマンスを披露した。

11月には、最初の実運用機と位置づけられた60機の衛星が打ち上げに成功。この衛星は、通信機器を改良したり、運用終了後に大気圏に再突入した際、機体が確実に燃え尽きるよう、素材を燃えやすいものに変えたりといった改良が施されている。

今回の打ち上げはこれに続く2回目の実運用機の打ち上げで、これにより衛星の総数は約180機となった。なお、これまで打ち上げられた衛星のうちの一部は、故障などにより運用を行う軌道に乗り移れていないことがわかっている。

スペースXでは今後もハイペースで打ち上げを続け、2020年末から2021年初めまでに、日本を含む全世界での暫定的なサービス開始を目指している。また、その後もさらに打ち上げを行い、最終的に1万機から、最大で4万機の衛星を配備し、全世界で安定的かつ機密性の高い、高速インターネット・サービスを展開することを目指している。

同様の宇宙インターネット・システムは、ソフトバンクグループなどが出資する米ワンウェブ(OneWeb)、アマゾン(Amazon)なども構築を進めており、またフェイスブック(Facebook)やアップル(Apple)なども参入を目指していると伝えられており、今後競争が激化することが予想される。

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    軌道を回るスターリンクの想像図。最終的に1万機から、最大で4万機の衛星を配備する計画となっている (C) SpaceX

光害や天文学への影響を低減

スターリンクは、情報格差の解消やビジネスなどで大きな可能性がある一方、その存在が天文学などに影響を与える可能性が懸念されている。

スターリンク衛星は、低軌道に大量の衛星を配備することから、太陽光で反射して輝きやすく、それが可視光や赤外線を使った望遠鏡の観測を妨げる、いわゆる「光害」となりうる。実際に、軌道や条件によって、光り輝くスターリンク衛星が連なり、夜空を横切る様子が観測できること、またそれが天体写真に写り込んでしまうことが、世界各地で確認されている。

また、衛星からほぼ常時降り注ぐ通信の電波が、電波を使った天文観測にとってノイズ(雑音)となる可能性も指摘されている。

今後、1万機や4万機の衛星が配備されれば、約200機の衛星が常時空に見えると予想されており、日没や夜明けの前後にはいつも衛星が見えるようになったり、電波天文観測に大きな影響が出たりすることが危惧されている。すでに昨年6月には、世界の天文学者からなる国際組織・国際天文学連合が、スターリンクなどの巨大衛星群(メガ・コンステレーション)による天文観測への懸念を表明する声明を発表している。

これについてスペースXは、打ち上げから1~4か月の間は、衛星の高度が低く、また衛星同士が密集しており、さらに大気抵抗を減らすため太陽電池を特殊な角度にしているため、地上から見えやすい状態になっているとコメント。衛星が軌道を上げて運用状態に入ると、太陽電池の角度などが変わるため、地上からは見えにくくなるとしている。

それに加え、今回打ち上げられた60機の衛星のうちの1機には、より見えにくくなるよう、実験的に機体を黒くし、反射率を下げる工夫を施しているという。

さらに、打ち上げに先立って、主要な天文学コミュニティに、2行軌道要素(軌道のデータ)を提供し、天文観測との調整を図るとともに、電波の問題においては、電波望遠鏡などがある地域では電波を出さないようにしたりなどといった対策を行うとしている。

また、大量の衛星を配備することは、他の衛星やスペース・デブリとの衝突や、あるいはスターリンク衛星自身がデブリの発生源となることも危惧されている。

これについてスペースXは、スターリンク衛星には、あらかじめインプットされたデブリのデータをもとに、デブリと接近した際には自動的に回避するシステムを導入。また、米空軍と協力し、スターリンク衛星に関する高精度の追跡データを他の衛星オペレーターと共有するなど、他の衛星やデブリとの衝突を未然に防ぐための仕組みを取り入れているとしている。

さらに衛星の運用終了時には、積極的に軌道から離脱させ、大気圏に落として処分することとし、また前述のように、機体の素材に再突入時に燃えやすいものを採用するなど、デブリ化も極力抑えられるよう配慮しているという。

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    軌道上のスターリンクの想像図 (C) SpaceX

出典

Starlink Mission | SpaceX
starlink media kit jan2020
総務省 - 我が国におけるスペースX社のKu 帯非静止衛星通信システムの動向について
Starlink
SpaceX kick-starts global 2020 launch year with Starlink mission - NASASpaceFlight.com

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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