国家戦略として進むスマートシティ化

IoTやロボット、AI(人工知能)、ビッグデータなどのさまざまな技術を活用して、人々のより良い生活を可能とする都市を実現しようという「スマートシティ」。新たなまちづくりの手法として期待される一方で、自治体や企業に任せて特定地域ごとに個別に仕組みの異なるスマートシティ化を進めれば、自治体が変わると書類の様式や仕組みが異なるといった従来となんら変わらないこととなり、住民の利便性を損なうこととなる。そこでそうした都市や地域に閉じることなく、自治体同士が広域連携を行い、全国でつながろうという「標準化」のモデル策定に向けた動きが加速している。

内閣府も、平成30年より進めている「第2期 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の12課題の1つである「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術におけるアーキテクチャ構築及び実証研究」において、研究開発項目「スマートシティ分野:アーキテクチャ構築とその実証研究の指揮」を掲げ、スマートシティの実現に求められる共通スマートシティ・アーキテクチャの確立に向けた研究開発を積極的に進めていく姿勢を見せている。

日本版スマートシティの確立を目指す会津若松市

この「日本版スマートシティ」の肝ともいえる共通スマートシティ・アーキテクチャの確立に向けた研究委託先はNEC、アクセンチュア、鹿島建設、日立製作所、産業技術総合研究所(産総研)、データ流通推進協議会(DTA)の6者で、その中の1社であるアクセンチュアは、2011年8月に福島県会津若松市に拠点を開設。震災復興支援や地方創生支援などを踏まえ、2017年より、こうした取り組みをプラットフォーム化し、全国に広げていこう、という取り組みを進めてきた。

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    会津若松市は白虎隊や荒城の月にゆかりのある鶴ヶ城をはじめとする戊辰戦争に関連した史跡などが市中のあちこちにある観光地でもある

会津若松市もそういった取り組みを受け入れ、現在は「スマートシティ会津若松」を掲げ、実証地域として、地方創生のモデル都市となり、他の地域へ展開可能なモデルとなることを目指している。

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    会津若松市の室井照平 市長 (2019年11月26日の同市で開催された記者会見にて編集部撮影)

同市の室井照平 市長は、「地域活力の向上・安心して快適に生活できるまちづくり・データを分析して、地図上などに表示して、まちの見える化、という3つの目的の実現に向け、特定分野に限らず、さまざまな分野でのICTの取り組みを進めてきた。産学官で連携して、市民が利便性を感じてもらえるように取り組んでいる。集積ということで、オフィス環境の整備も進めている」と、あらゆる分野の社会課題に対応できるスマートシティの実現に意欲を見せる。

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  • 「スマートシティ会津若松」の目的と、その枠組みのイメージ (2019年11月26日の同市で開催された記者会見にて配布された資料より抜粋)

スマートシティ実現の鍵を握る「都市OS」

スマートシティを実現する上で重要となるのが、さまざまなデータを分野横断的に収集・整理し提供する「データ連携基盤(都市OS)」であり、会津若松市も2015年より行政と市民のコミュニケーションポータル「会津若松+(プラス)」を運用し、市民の知りたいことに応じた情報提供を行っている。室井市長は「都市OSである会津若松+と連携して、新たなサービスを実証的に増やしてもらうことで、具体的なスマートシティとしてのイメージを市民に持ってもらえるようになる」とその重要性を強調。持続可能な魅力あるまちづくりの実現には、市民の利便性向上が必要であるとする。

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    「会津若松+(プラス)」の概要 (2019年11月26日の同市で開催された記者会見にて配布された資料より抜粋)

その会津若松+は、現在市民の20%が活用するまでに拡大してきた。この数値が高いか低いかは議論の余地のあるところだろうが、総務省が推進してきたマイナンバーカードの普及率は2019年11月1日付けの値で14.3%であるところを考えると、かなりの浸透度合いと言えるだろう。ただ、アクセンチュアで戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクターを務める海老原城一氏は「20%といっても、一気に来たわけではない」と、簡単に到達したわけではないことを説明。「8年間実装してきた会津若松+は、市民に選ばれているものであるのかを重要視してきた。あくまで市民の皆さんと向き合いながら、こういうサービスがあれば便利であると言ってもらったものをサービス化してきた。だから使ってもらえるものとして育ってきた。今後も、行政手続きが簡素化できるなどのメリットが浸透していけば、より使う人も増えてくると思う」と、あくまで市民のニーズに寄り添う形で発展してきたとの見方を示す。

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    アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクターの海老原城一氏

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  • 会津若松+を中心とした利用者目線でのサービスを拡充してきたことで、市民の利用率も年々上がってきた (2019年11月26日の同市で開催された記者会見にて配布された資料より抜粋)

ただ、アクセンチュアとしては「初めの合格ラインは30%だと思っている。一般論として、それを超えれば、例えば行政の担当者3人でやってきた処理の1人をデジタル担当にまわしたりできるようになる」と、30%が都市OSとしての活用に向けた1つの分水嶺との見方を示す。「30%に到達するころには、アーリーアダプタからマジョリティの層に移行できる状況となっている。そうなれば後はジワジワと口コミでも広まっていける」とするほか、「今の日本で30%の視聴率を取れるテレビ番組はなかなかない。しかし、市民の3割が見る、となればそこに広告を出したい企業もでてくる。そうなれば自治体が費用を捻出するのではなく、そうした外部からの資金で運用できるようになったり、といったことも可能になる」と、持続的な運用に向けた仕組みを構築するためにも必要な割合であるとする。

実際、11月末にはアライズアナリティクス、TIS、アスコエパートナーズの3社が新たに会津若松+を通じたサービスの提供を行っていくことを表明しており、こうした提供サービスの拡大を通じて、利用者数の増加を目指すほか、アクセンチュアとしても内部でいろいろと試行錯誤を行っているとのことで、そうした取り組みも含めて、会津若松市の活性化につなげていければ、としている。

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  • 11月末に追加された3つのサービスと、それに伴うスマートシティ会津若松の全体像 (2019年11月26日の同市で開催された記者会見にて配布された資料より抜粋)