日本版スマートシティの肝とは?

アクセンチュア・イノベーションセンター福島のセンター長を務める中村彰二朗氏は「こうした取り組みを誰かがやらなければ、日本はデジタル社会から脱落する」と、危機感を露わにする。また、その一方で、「スマートシティをやりたいという声は年々大きくなっている。うちは良くわからないから後で良い、という自治体は少ない」と、自治体としてもスマートシティの実現に向けた意欲が高いことを指摘。2020年4月から始まる第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を踏まえ、多くの自治体がスマートシティ化を取り組みの中心に据えていこうという動きを見せつつあるともしている。

  • スマートシティ会津若松

    アクセンチュア・イノベーションセンター福島のセンター長を務める中村彰二朗氏

また、中村氏は「こうした状況において、標準化しておけば、全国的な話になった際に話がスムーズに広がる。スマートシティのアーキテクチャといっても、企業が運営者の中心となるアメリカ型、行政がバックエンドで企業がフロントエンドを担当する中国型などもあるが、会津若松は地域主導。行政が牽引車として重要な役割を果たしつつ、大学や病院、企業が連携していくという形であり、これが日本の標準モデルとして育っていってもらいたい。これまでは自治体同士のシステムをつなげるコストが高かった。しかし、標準化すればコストを抑えることができる。だからこそ、初めから標準化を念頭にした取り組みを会津若松では進めてきており、4つのAPIを活用することで、自治体間連携の実現を目指す」と、標準モデルの策定の重要性を説明する。

「誤解してもらいたくないのは、ガイドラインやAPIのリファレンスは作成するが、そうした設計図と実装は別なので、実装についてはほかの企業が実証を担うことになる。議論としては、もっと良いものができると思っていて、そうした点ではまだまだ進化の途中と言えるし、都市OSはずっと進化し続けるものだと思っている」と中村氏は、都市OSとはサグラダ・ファミリアのような長い年月をかけて完成を目指していくものであるとする。「スマートシティ化は、表立って市民が要求するものではないが、地域の活性化を考えたら行政がやらないといけない取り組み。その実現のためには、マインドのチェンジが重要」ともし、実際に会津若松+でもオプトインで医療データを集める際に、孫や子供の健康のために役に立つのであれば、と一般的にはスマートフォンなどのデジタル機器の操作が苦手と考えられている高齢者たちが、自身のデータの提供を率先して行ってくれるという事例もでてきたという。

  • スマートシティ会津若松
  • スマートシティ会津若松
  • 連携しやすい形で標準化することで、サービスやデータの連携・流通が自治体間などで比較的容易に行えるようになるため、各自治体はそれぞれの地域を活かしたまちづくりに注力することができるようになる (2019年11月26日の同市で開催された記者会見にて配布された資料より抜粋)

デジタル社会を実現するのに必要なこと

中村氏は、これからの未来を考えるのであれば、デジタルを前提とした社会という考え方をすべきだとする。会津若松市立の幼稚園・小学校・中学校と教育委員会の情報を一本化して発信を行う「会津若松市教育ポータルサイト あいづっこWeb」をスマートフォン向けに開発したアプリケーション「あいづっこ+(プラス)」をインストールすると、学校からの便りや日常の学校生活の情報なども入手することができるため、意外と父母のみならず、祖父・祖母も孫の近況を知るためにインストールして利用するといった人も多いという。中村氏は「使いたくなるということはそういうこと」と、スマートフォンを使いたくなるモチベーションを増やす取り組みを進めることで、いわゆるデジタルデバイドは解消できると見る。

会津から世界へ。スマートシティの取り組みは全世界的に進められているが、これが決定的、といったものはまだ出てきていない。そうした意味では、市民の利便性を追及し、地域社会の活性化も可能とする会津若松市の挑戦は、日本型スマートシティの可能性という意味でも、日本人が思う以上に価値を持つものとなってくるかもしれない。

参考文献

・内閣官房・内閣府 総合サイト、まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」「基本方針」
・首相官邸、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定に向けて 資料3
・首相官邸、スーパーシティとデータ連携基盤について 資料3-2
内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー) ・内閣府、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)ビッグデータ・AI を活用したサイバー空間基盤技術研究開発計画
・内閣府、SIP(第2期)研究開発計画の概要
・経済産業省 『スマートシティ会津若松』の取組 ~データ活用を軸とした新たな産業集積への挑戦~
・総務省、マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和元年11月1日現在)
・国土交通省都市局 平成30年8月、スマートシティの実現に向けて 【中間とりまとめ】
・アクセンチュア ニュースリリース「スマートシティのアーキテクチャ構築に関する内閣府SIPを受託」
・TIS ニュースリリース 「TIS、住民IDと連携する決済プラットフォームの実証研究を会津若松市の総合病院で実施~ ID決済で住民のキャッシュレス・ワンストップサービス実現を目指す ~」
・アライズアナリティクス ニュースリリース 「会津若松市における都市OSとの機能連携に関するヘルスケア領域の実証研究をNEDOから受託」
・アスコエパートナーズ ニュースリリース 「会津若松市の協力のもと スマートシティ・デジタルガバメントを推進する実証研究を実施します」